顔面蒼白する女中と、破天荒な行為を目の当たりにし言葉を失う蘭子の視線を振り払い(蘭子「お嬢様。なんて乱暴な!」)、「次は仕留める」転がった壷を手にとって廊下に出る。
「お待ち下さい!」息を吹き返した女中が中庭に目掛けて壷を放ろうとしている玲を制する。
それだけはどうか、と縋ってくる女中は自分の近未来を想像してしまったのだろう。
祖父の無慈悲を知っているがゆえに、繰り返し、それだけはおやめ下さいと懇願してくる。
流し目にする玲は知ったことではないと壷を持ち上げた。
「君は僕が情報を求めた際、平然とあしらった。だったら僕も君の願いをあしらう。あいつから処罰を受けるこったね。身内以上に、あいつは他人に厳しいし。
それとも、僕を止める情報を提供してくれるのかい?」
にこっと微笑む玲に、「それは」女中が言葉を詰まらせる。
チラッと壷を見せ付けると女中は自分の失態の比重を天秤に掛けた。
壷を割られる失態と情報漏えいの失態、どちらがより安全なのかを。
同時に他の召使が女中を呼んだ。取り込み中だと女中が下っ端に視線を飛ばすと、「お電話の相手は例の方なのです」またお金をせびりに来たんではないかと子機を差し出す召使。
意味深な台詞に玲は眉根を寄せ、壷を中庭に軽く放った。
声を上げながら女中がそれを受け止めに行く、その隙を見て玲は下っ端から子機を奪い取った。
「あ!」
向こうの焦り声なんて無視し、相手にもしもしと応答する。
相手は男性だった。
肉声からしてそれなりに歳だと思われる。
玲が出たことに相手方は驚いた様子だったが(お前誰だと当然の如く言われた)、自分が御堂淳蔵の孫だと告げ、今祖父は留守だ。自分が託を受け取ると胸を伝える。
相手もようやく話せる相手が見つかって安堵したらしく、自分の用件を伝え始めた。
経緯を察するによほど相手にされていなかったらしいのだが、それどころではない。
その瞬間、玲の頭の中は真っ白になる。この男、何を言って。
見計らったように玲の学ランに入っているスマホが振動したが、今しばらく玲は息を吹き返すことが出来なかった。
≪あのじいさんに伝えてくれ。また仕事が欲しいんだ。ほら、裕作の一件のような仕事をさ≫



