前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



閑話休題。
 
蘭子と厳かな木造作りの正門を潜った先に待っていたのは、召使達のお引取り下さいだった。

ある程度予想していたとはいえ、あからさま予想していた面持ちで「予約がないのでしたらちょっと」と口角を持ち上げられる。

さすがは祖父の下で働いている召使。

一々癪に障る面持ちをしてくれる。


「突然の訪問に対する非礼は詫びる。だが緊急事態なんだ。僕の大事な婚約者が行方不明なんだが」


君達なら情報を知っているだろう?


うめき声を上げながら問い掛けても、素知らぬ顔で「存じ上げません」


これは何か知っているに違いない。

そう察した玲はクスクスと笑っているふくよかな中年女中をギッと睨む。

相手は悪意ある笑みでお引き取りくださいの一点張りだ。

此方の焦りを見越して笑ってくれているのかもしれない。


祖父の権力がなければ此処まで人を見下すこともできないくせに。
 

頭に血をのぼらせる玲の隣では、蘭子が眉根をつり上げていた。

彼女もまた仕えている主に対する女中の態度に腹を立てている様子。


揃って煮えた気持ちを抱くが、向こうには暖簾に腕押しである。

何処吹く風でお引取りくださいばかり。


どうやったら情報を聞き出せるのか、玲は考えに考えた結果、玄関口に佇む女中を押しのけてズンズンと中に入る作戦を強行した。
 

途端に向こうの顔色が変わるが知ったことではない。

「玲様。困ります!」声音を張ってくる召使に、「君は一体誰に口を利いているんだい?」とシニカルに笑う。


「これでも僕は御堂淳蔵の血を引いている正式な血縁者だ。
君のような使いに指図される覚えはないね。僕を止めたかったら、ジジイをこの場に寄こすこった。僕は血縁のある者の言うことしか聞かない」


「なっ」顔を引き攣らせる女中から余裕とが消えた。横暴な態度を取られるとは思わなかったのだろう。ザマーミロである。


「玲お嬢様の言うとおりでございます。
お嬢様は、正統な御堂家のお方。彼女にご命令できるのは大旦那様以外におりません。
ゆえに非礼な言動は謹んで頂きます。玲お嬢様への暴言は御堂家の暴言そのものに値します」

 
自分の肩を持ってくれる蘭子の含み笑いに、つい玲も笑みを零してしまう。

さすが蘭子、長年自分のお目付けをしているだけある。好い性格をしているものだ。

クスリと笑ってくる彼女に綻んで玲は磨りガラスがはめ込まれた引き戸を引き、掛け軸や盆栽が飾られた家内に足を踏み込んだ。

向こう側の女中は大層忌々しそうに此方を睨んでいたような気がするが知ったことではない。


殆ど他人の家と言っても過言ではない廊下を過ぎり、勝手に大間に入ると四隅に置いてあった座布団を敷きながら、客人だからお茶くらい用意してくれるよな、と嫌味を飛ばしてやった。

脅しがよほど効いたのか、素っ気無くだが女中はそれなりの≪おもてなし≫をしてくれた。


あくまでそれなり。

詳細は述べないが、決して客人をもてなす態度ではなかった。