「もしかしたらジジイ側の人間に見つかった可能性があるかもしれない。イチゴ、無事だといいが」
「アンタのおじいはんはそない物騒なん? 花畑、ただの高校生やで? そりゃ馬鹿なことはしたけど」
「どんな輩でも自分の有利な手駒にしてしまう。それが僕の祖父だ。
豊福といい、イチゴといい、孫の僕といい、祖父にとっては駒でしかない。
不利益が出るようなら斬り捨てる奴なんだ。
だからこそ命令に逆らった豊福が心配でならない。
損害ほどジジイの嫌うものはないから」
「怖いなぁ」呆気取られるトロの隣では、「空さま。イチゴさん」どうかご無事で、さと子が指を組んで祈っている。
玲だって気持ちは同じだ。
二人とも無事でいて欲しい。
祖父の思い通りにならないでもらいたい。
特に婚約者には無事でいてもらわないと、人があんなに心配して電話をしているというのに一言も言葉を発さないとは一体どういう了見。
泣かせるなんて物騒なことは言わない。
が、素直になるレッスンはすると公言しても良いだろう。
何より前に約束したではないか。
祖父に何か強制されそうになったら相談しろ、これは約束だと。
婚約者は約束すると言ったではないか。
あの麗しのうそつきくんめ。
自分のためだとはいえやはり腹が立つもの腹が立つ。
「ふっ、豊福め。鏡プレイをよっぽどされたいようだ。そんなに好きなら幾らでもしてやるというのに」
婚約者は肉体的攻めより、精神的攻めの方が苦手としている。
ならばそれであれやこれやどれをしてやる。
向こうが赤面どころか蒸発してしまいたくなるようなことをしてやるとも。
ゴォオッと怒りに燃える玲だったが、蘭子の声掛けにより我に返る。
返事せず、玲は停車した車の扉を開けて降車。
目前に現れた立派過ぎる日本屋敷に目を細める。自分達の住む屋敷と変わらない、いや、それ以上の立派な日本屋敷。
祖父は此処に信用の置ける召使と自分しか住まわせていない。
その内、天涯孤独になるのではないかと心中で皮肉った。
現に現在、家族と普段は疎遠状態で、それなりの用事がある時しか顔を見せないし自分達を住まいに呼ばない。
財閥界のトップに君臨している一方で祖父を怨む輩も多い。
あの性格では昔からオトモダチもいなかっただろう。寧ろいたら驚きである。
「さと子とトロは此処で待っててくれ」
自分に倣って降車しようとする二人に、此処は自分と蘭子だけで行くと物申す。
「でも」憂慮を含んだ眼を飛ばすさと子に大丈夫だと玲は一笑した。すぐに戻ってくるから待機しておいてくれ。
そう告げると、「トロさんと二人きりですか」お嬢様は殺生過ぎます。さと子に涙ぐまれた。
……彼女は自分の身を案じているらしい。
背後ではトロがでれっと頬を崩している。
玲は二人を一瞥した後、「頼んだよ」運転手もいるから大丈夫だと微笑んで扉を閉めた。
そう、玲は彼女の訴えをスルーしたのである。
酷いですと車内から声が上がったが今は婚約者とその友人の行方が第一だ。
可哀想だがさと子には我慢してもらおう。



