御堂淳蔵の住居は所謂一等地と呼ばれた高級住宅街の一角にある。
彼の息子源二の住居も負けず劣らず一等地なのだが、淳蔵が住居を置いている土地は二倍の高値が付いていると聞いたことがあった。
自分の育て上げた信用の置ける召使しか住居におかず、血の繋がった玲達家族すら彼の住居に身を置くことは許されない。
玲自身は祖父と同居せずに済むため、彼の凝り固まったポリシーには感謝したいところだが、両親はそうでもないらしい。
その昔、両親と祖父は同居していたそうだ。
当時はまだ祖母が生きていた時代。
祖母とは上手くいけど、祖父とは絶えず衝突が起こり、母は随分と苦労していたと聞く。
祖母の死を契機に祖父が住居を移すよう命じたため、今の暮らしに落ち着いている。
そんな祖父など絶縁でもなんでもしてしまえば良いのに、と感情的になってしまうのは、自分がまだ子供だからだろうか?
祖父とは対照的に祖母は本当に優しい人だったらしい。
政略結婚させられた哀れなフランス人女性だったと父は語っていたが、一方で母親のことを高貴な女性だと賛美していた。
どんな境遇に立たされても祖父を愛し、息子を愛し、無償の愛情を注ぎ続けた女性だとか。
まるで聖女のような精神の持ち主だと玲は思ってならない。
仕事一筋冷徹人間を惜しみなく愛するなど、自分では到底できないことだ。
話は戻り、御堂淳蔵宅を目指す玲は車内で腕を組み、車窓から流れ消えていく景色を一心不乱に見つめていた。
暮れていく夕日の向こうに見える街並みは見事に紅の化粧をされている。
下校中の中学生やスーパー帰りの奥様の姿が目に入っては、視界から消えていく。
こうした景色を眺めることで少しでも自分の苛立った感情を緩和できれば良いのだが、物事は上手くいかないようだ。
腹立たしく吐息をつき、長い脚を組みなおす。
「さと子ちゃんの隣に座れるなんて本望やー! ほら、カモン、カモン」
「ちょ、近付かないで下さい! わ、わわわ私は押し倒しませんったら!」
……本当に物事は上手くいかないようだ。
向こう側の席でいちゃいちゃのらぶらぶ(?)オーラを醸し出している、新たな攻め女受け男カップル(?)に玲は溜息をついた。
嗚呼、なんて空気を読まない行動を…じゃない。なんて羨ましい行動を取っているんだ。あの二人。
自分も早くいちゃこらしたい。
婚約者と再会してッアーなことやらなんやらをしたい。
それ以上に、無事なことを確かめ合いたい。
数時間前に会った婚約者のぬくもりが恋しくて堪らない。
嗚呼、目前の二人が羨ましい。
空気を読め畜生。人前でイチャイチャなど恥ずかしくないのか!
苦々しい面持ちを作っている玲だが、完全に自分のことを棚に上げていた。
「お取り込み中悪いがトロ。メールは来ていないか?」
この空気を断ち切るため、また、不安を払拭するために相手に声を掛ける。
攻めて下さいオーラを出していたトロは一変して、真顔になるとブレザーのポケットから携帯を取り出し確認。
「来てへん」
あいつマジ何してんねん。トロは口を曲げて息をつく。



