「博紀がジジイ側の人間だったなんて。
くそっ、ジジイめ。家に自分側の人間を忍ばせていたのか。推測するにあいつ伝いに僕等を監視していたというところだろう」
「七瀬は昨夜、異動届を出したそうです。次の勤め先は大旦那様のご自宅です」
「豊福はジジイの家に?」
「可能性は低いでしょうね。玲お嬢様が大旦那様のご住所を知っているゆえ、ご自宅に連れて行くことはあまりないかと。所沢様、お友達様とご連絡はつきましたか?」
トロは首を横に振る。メールを何通かしてみたが応答はないらしい。
安易に電話もできないし、どうしたものかと彼は溜息をついた。
何も言えずにその様子を見守っていると、「ジジイの家に行く」玲が決意を表した。
「しかし」空さまがいる可能性は低いですよ、蘭子が物申すと「召使はいる筈だ」そこで情報収集はできると令嬢は険しい面持ちを作った。
祖父が自宅にいるとは思えないが、何かしら情報を持った輩は潜んでいる筈。
これから先の行動を起こすにしてもイチゴの連絡待ち、だけでは時間の無駄だと彼女は意見した。
「少しでも情報が欲しいんだ。頼む、蘭子。ジジイの家に行かせてくれ」
あいつは何かとイチャモンをつけてくるだろうが突然の訪問に対する非礼は僕が責任を取る。
以前、鈴理に環境を変えるうんぬんで一丁前なことを言っているんだ。
僕もこの事態を死ぬ気で解決したい。
ただ自分ひとりじゃ無理だ。
僕に出来ることは限られている。
蘭子、手を貸してくれ。
鈴理と僕の差を詰めるためにも行動するしかない。
「まがい物な関係でも豊福は僕の婚約者。好きな人は僕の手で取り戻したい。蘭子」
「お嬢様……、分かりました。蘭子も責を負います。参りましょう」
「ありがとう」一変して綻ぶ玲の面持ちにさと子は彼女の本気を察する。
本当に婚約者のことが好きなのだ、彼女は。
婚約者達の睦まじい仲を傍で見ていたからこそ、さと子自身、彼等の関係に複雑な念を抱いてしまうが、これは部外者が口を出すべきことではないのだろうと思い改めさせられる。
自分の主観のみで物申すのは相手に失礼だと身に沁みて分かったのだから。
「さと子とトロも協力してくれ」
玲が畏まった口振りで手を貸してくれるよう頼み込んでくる。
二人は連絡が着くまで車内にいて欲しいと言うのだ。
「花畑のことがあるさかい」
勿論ええよ、トロが肩を竦める。
こういう場面では素敵な人だな、さと子が視線を投げると、
「さと子ちゃんが一緒やもん!」
オレ、何処にでもついて回るで!
デレデレっと彼がアツーイ視線を送ってきた。前言撤回である。
二人の快諾に目尻を下げて感謝を口にする玲は、傍らにいた召使を呼ぶと君達にはこのお使いをしてもらいたいと学ランのポケットから四つ折りにされた紙切れを取り出した。



