「今までこの世界を知らなかったオレが恥ずかしいわ。女子が攻める。雄々しく男を食らう。可愛い顔なのに男より男らしく男をリードする。
むっちゃかっこええやん!
そんな女子がおるんや。食われたい男子がおったってええやんかー!
オレっ、ほんまに受け男になりたいんやで! いや、なるで。オレはなるんや!」
そのためだったらどんな努力も惜しまない!
間違った方向にどどーんと燃えているトロにさと子は号泣したくなった。
基本的に受け男が成立するのは攻め女がいてこそ、である。
したがってターゲットにされている自分では無理があるのだ。自分は攻め女ではないのだから!
しかしトロの熱意に感銘を受けたのか、「ああいう男が増えればいいな」そうすれば僕も男スキーになるかもしれない、玲が恍惚に彼を見つめていた。
「あそこまで攻め女を賛美してくれる男もいないぞ。トロ、君は本当に好い受け男だ。素晴らしい」
駄目だこりゃである。
此処には自分の肩を持ってくれる輩が一人たりともいない。
グズッと涙ぐみながらさと子は(空さま。お戻り下さいっ)と心中で嘆いた。
受け男で苦労している彼ならばきっと同情してくれるだろうから。
「玲お嬢様。車の特定ができました」
と、電話をしていた蘭子が携帯を折りたたんで三人に視線を流してくる。
もう車の特定ができたなんて。
御堂家は警察と連携しているのだろうか?
疑問を抱く一方で、険しい面持ちを作っている上司にさと子は怖じてしまった。
いつも朗らかに笑っている顔が引き締まっている。
自分にお叱りを飛ばす時と同じ表情である。
構わず令嬢が尋ねた。
誰が豊福を連れ去ったのか、と。
間を置いて蘭子が返事する。「七瀬です」と。
さと子に衝撃が走った。
まさか、そんな、憧れのあの人が玲の婚約者を連れ去ったというのだろうか?
「見覚えのある車でしたので、まさかと思い、連絡を取って履歴書から七瀬の車の登録番号を調べさせて頂きました。
結果ナンバープレートが一致しております。
所沢さま。空さまをお連れした輩の顔は見ておりますか?」
「え、ああ、見てるで。ちゃんと顔も憶えとる。
なんや高そうなスーツ着てた優しそうな奴やったなぁ。
暴力を振るうような奴には見えへんやったけど……、止めたれば良かったって今は後悔しとる」
「それはこの方でした?」蘭子が携帯から画像を呼び起こし、トロに確認の胃を込めて犯人の顔を見せる。
「こいつやこいつ」
トロは首肯する。
この男こそ玲の婚約者に暴力を振るって連行した張本人だと明言した。
少しならずショックを受けるさと子だったが、同じように玲もショックを受けているに違いない。
「博紀が。まさか」
信じられないと言った口振りで絶句していた。
並行して自分の身近に祖父側の人間がいたことにもショックを受けているようだった。
もしかしたらさと子より彼女の方がショックの度が大きいかもしれない。



