憧れの人は思いのまま相手にぶつけてみても良いのではないかと助言してくれた。
その際、
「さと子は玲お嬢様思いだからね」
自分の肩を持ってくれて嬉しいと、
「ちょっと婚約者様はジコチューが入ってるから」
葛藤している自分の気持ちを察してくれるような発言をしてくれた。
まったくもってそのとおりだと思った。
婚約者がいながら、元カレにまだ未練があり、しかも命令には忠実に従う素振りを見せるなんて。
励ましを貰った甲斐あって、彼と話す機会を設けることが出来たのだが、会話を交わしてみれば本当にジコチューで。
信じられなかった。
あんなに優しくしてくれたのに、どうして、嗚呼、どうしてお嬢様のお心を踏み躙るような真似をするのだろう。
さと子は彼を信じることができなかった。
なのに真実の蓋を開けてみたらどうだ。
ジコチューどころの話ではなかった。
苦境に立されていた現実と、彼の取った行動に呆気取られるしかなかった。
お心はないなんて、それこそ虚言だ。
確かに彼は元カノを想う節があり、今も胸にその想いを秘めているのかもしれない。
自分が仕えるお嬢様は片恋を抱いているのかもしれない。
(だけど、空さまは大旦那さまの命令に逆らった。お嬢様の未来をなにより大切に想って)
彼女を守り想う気持ちは本物だった。
信じられず暴言を吐いた自分が恥ずかしくなった。
真偽を確かめず感情のままに暴言を吐いた過去の自分を消したくなった。
上京してそろそろ半年。
彼とは三ヶ月ほど前に出会い、これまでずっと仲良くしてもらっていた。
話し相手は勿論、自分の仕事を手伝って貰ったり、通信制で配布されるドリルの勉強を教えてくれたり。
不慣れな環境に心細い毎日を送っていた自分の心中を察し、夢を応援してくれ、環境や友達関係に気を回してくれた人だった。
常に自分に優しくしてくれる人だった。
やっと気の置けない友達ができたのに。
失敗ばかりするドジな自分を慰めてくれたのに、自分は相手が辛い時に罵声を浴びせてしまった。
心配よりも自己嫌悪と申し訳なさが先に出てしまい、泣きたい気持ちで一杯になる。
嗚呼、消えてしまいたい。
(どうして私はドジばかりっ…、空さまのお気持ちに耳を傾けることすらしなかったなんて)
スンと鼻を啜って気持ちを押し殺していると、「まだ遅くないやろ」そない沈まんといてぇな、トロが困ったように笑った。
「喧嘩したならごめんなさい言えばええやん。それで終わる話やで。喧嘩ってそんなもんやろ?」
「喧嘩じゃありませんっ。一方的に……、私、空さまを信じられなくて」
「何が信じられへんやったのかよう分からんけど、今から信じるじゃ遅いんか?
信じられへんかった分、それ以上に相手を信じてやれば、相手にも気持ち伝わるもんちゃう?」
やってしまったものはしゃーない。これからや。
気さくな笑顔を向けるトロにさと子は瞠目した。



