ダンマリになってしまった玲の傍らではさと子が溜息をついていた。
想いに耽っている二番目の友達を一瞥しては吐息。
出るのはこればかりである。
「どないしたーん?」
ぬっと顔を覗き込んで来るトロに驚き、声を上げたさと子は三歩ほど後退。
後ずさるのではなく攻めて欲しいのに、とトロが不満げに物申すがそれは無茶な要求である。
距離を置いて相手の出方を窺っていると、「心配やな」事情はよう分からんけどケッタイなことになってるみたいやし、トロがブレザーにポケットを突っ込んで肩を竦めた。
彼の言葉にさと子は間を置いて頷く。
本当に心配だ、ほんとうに。
けれどそれ以上に。
口を閉ざしてしまうさと子にぱちくりと瞬きしたトロは、別のことで心配でもあるん? と質問を飛ばしてきた。
意外と聡い。
さと子は唇を歪曲にした。への字に曲げる自分に、「どんな心配があるん?」とトロ。
「なんでもないです」
ほっといて下さいと素っ気無く返すが、トロは能天気に笑うだけだ。
「豊福と何かあったんやな」
ずばっと指摘され、さと子がドキリと肩を弾ませる。
「だって態度ちゃうもん。前に会ったさと子ちゃんは空さまに手を出す輩成敗ー! みたいな感じやったやん?
あれでオレ、さと子ちゃんの愛の攻めに目覚めたわけやけど、それは置いといて。
とにかくなんか態度がちゃうんや。
心配なんやけど心配しきれてない。そんな感じするで。どないしたん? 嫌いになったんか、豊福のこと」
オレは別にそれでもええけどな。
ひらひらっと右手を振るトロの他人事な物の言い草にさと子は不機嫌になる。
「貴方には分かりません」冷たく返事すると、「分からへんよ」トロがおどけた。
二人の間に何があったかなんて部外者の自分に分かる筈がない、と彼は努めて明るく返してくる。
何より自分はさと子ではないのだ。
言わないと分からない、トロは目尻を下げた。
「ただな。さと子ちゃんがそれで落ち込んでるのはよう分かったで。
何があったか知らへんけど、自分の気持ちには素直になった方がいいんちゃうか? その人がいなくなってからじゃ、遅いって事もあるんやで」
もう遅い、彼はいなくなった。
自分の胸の内を明かすこともなく、黙って罵声を受け止めた小憎たらしくも申し訳ないお友達第一号は行方を晦ませてしまった。
やはり言わなければ良かったと後悔が胸を占める。
あの時、勢いに任せてあんなことを言わなければ今の自分はもっと素直に心配していたことだろう。
そう、自分があんなことを言わなければ。
折角大好きな人に相談して悩みを聞いてもらったのに、結果が裏目に出てしまった。
憧れの人に相談したのだ。
事情は伏せて、玲のことでお友達が信じられなくなった。
信じたいが信じられない。
どうすればいいか、と。



