曰く、彼はこの付近に住むイチゴの家に遊びに行くため、イチゴと共にこの公園を通りかかったらしい。
そこで偶然にも婚約者を見かけたのだという。
イチゴは彼を見掛けた瞬間、隣町から此処まで遊びに来たんだ!
だったらあいつも家に誘おうとテンションを上げて接近。
声を掛けようとした。
しかし声を掛けられなかった。
彼は見知らぬ青年と話していたのだから。
連れがいるだけなら、挨拶程度で公園を通り過ぎたことだろう。
「けどな、その、あいつ……、暴行されてたんや」
「そ、空さまが……、暴行を受けて」
血相を変えるさと子に、歯切れ悪くトロが頷く。
「軽い暴行やったと思う。首絞められたり、蹴られたり。助ける前に連行されてたから、イチゴが様子おかしいゆうて後を追い駆けたんや」
するとどうだろう。
鳩尾を突かれて気を失っている彼がいたではないか。
まさかこれは、誘拐事件なのだろうか。
いや、それにしては少し様子が違う。
青年の方はそれ以上の危害を加えることもなく、相手を助手席に乗せると携帯で何処かに電話していた。
微かに聞こえた会話は、「空さまはすぐそちらに送り届けます」というもの。
もしや彼が家出でもして家に強制連行されているのではないだろうか?
やや暴力沙汰になったのも、自分の立場をしっかり教えるためでは。
だがあれがもしも誘拐だったら……、警察に連絡するべきだろうか?
『(なんかやべぇ気がしてきた)』
ひそひそ声で相方がそういうものだから、『(ほな警察か?)』トロがすかさず携帯を準備。
『(ちげぇよ)』
イチゴはやばいの意味が違うと様子を見ながら答えた。
何が違うのか、まったく意味が読み取れずトロは首を傾げる。
『(なんやん。花畑の言うヤバイって)』
『(わっかんねーよ。けど、なんかやっばいんだ。俺の六感が疼くっていうか……、トロ。此処で見張っててくれ。ちょい空を連れて来る)』
『(はあ?! なにゆーてんねん! もしもあのアンちゃんがやばい奴やったらどないすんねん。勘違いかもしれへんし)』
『(あいつ胡散臭そうだったじゃんか。だーいじょうぶだって。俺の感に狂いはないんだ。フットワークも軽いし)』
そういう問題ではない。そういう問題では。
顔を引き攣らせるトロを尻目に、相手が車から離れた隙を窺ってイチゴが駆け出す。その際、しっかり自分に鞄を放って。
『(や、やめとけって!)』
血相を変えて後を追おうとするトロに、お前はそこにいろとイチゴが片手の平を見せてきた。
イチゴはこういった強引ゴーイングマイウェイがあるから困る。
戻ってこーい! 心中で叫ぶトロに構わず、イチゴは助手席を開けた。
シートベルトを外して文字通り掻っ攫おうとしたのだが、なかなかシートベルトが外れてくれないらしくモタモタしている。
ハラハラとしながら見張りをしていたトロは、あの青年が戻ってきたと身振り手振りで合図。
気付かれないように連れ出すのは無理だと察したイチゴは、また至らん思い付きをしたらしく後部座席に乗り込んだ。



