酷いな、豊福は。
僕がどんな思いで好きだと言っていたのか、知っていたくせに。知ってくれていたくせに。
自分ひとりで思い悩んで、思い悩んで、守ると約束してくれた僕の未来を選んでッ……、代替なら沢山いる? そんなわけないのに。
僕は生粋の男嫌いだぞ。
男嫌いの僕が簡単に他の男を受け入れるとでも思っているのか?
……分かっている。
だからと言って豊福がジジイの命令に従えなかった心境も、分かっているんだ。
あいつが鈴理とスるなんて無茶すぎる命令だったんだ。
データを盗むという命令も無謀なら、肉体関係になれという命令もまた無謀だったんだ。
だってあいつ、やたら女体のことを気遣う。
口癖のようにスチューデントセックスは断固反対って言ったのはそのせいだ。
一端の男として一端の女を気遣う、オトコなんだ。
嗚呼、僕はジジイを誰よりも許さない。
豊福に何か遭ったら、あのジジイっ、どうしてくれよう。
此処まで憎しみを覚えたのは初めてだ。
ただでさえ過度な家庭教師を強いていたくせにっ、これ以上、あいつを、僕をどうしたいんだ。
僕達が息子をもうければ、それであいつは満足だろ? なんでほっといてくれないんだ。
なんでそっとしておいてくれないんだ。
「僕は、先の未来が片思いだったとしても、豊福と同じ未来を歩みたいのに。いつだって壊すのはあのジジイだ。あのジジイが」
苦言に教育係がピシャリと告げた。
「お嬢様、鈴理令嬢も仰っていましたが、まずは冷静になって下さい。
蘭子は貴方様ご自身のことも心配でございます。
そのように熱くなられては、事態を悪化しかねません。
どうかお気持ちを静められて下さい。空さまのためにも。
……そろそろ例の公園に到着しますよ」
握り拳を作って憎悪を噛み締めていた玲は、教育係に分かっていると突き返す。
けれどもこの激情は止まることを知らない。
怒りと不安と憎悪、これらの激情が渦を巻いて自分の身を支配しようとしている。
理性が勝って必死に抑え込んでいるが、これまでの仕打ちや暴言、付け加えてこの騒動。
感情が爆ぜないわけがない。
奥歯を噛み締めて気持ちをやり過ごしていると、自分たちを乗せた車が停車した。
弾かれたように玲は外に出る。
もう既にいないと分かっていつつも、一抹の希望を捨てきれない。
転がるように公園の敷地に入った玲は婚約者がいないかどうか目を配る。
しかし、そこにいるのは見覚えのある使い二人。
蘭子の命によって一足先に公園に赴いていた彼等は、玲の姿に気付くと駆け寄って「これを」手中にあったものを差し出す。
それは自分が託したスマートフォンと、元カノから預かっているという従来型の携帯。公園の茂みに落ちていたと彼等は語る。



