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「豊福がバスを使った。ということは遠出をした可能性があるな。
間違っても自宅に帰るため、ではないだろう。
豊福は自宅まで必ず徒歩で帰る男だ。実家暮らしの時は片道40分掛けて学校に来ていた。
ドケチ…、じゃない、節約に心がけているあいつが慣れた道のりの金を使うとは考えにくい。慣れていない道に対して金を使うなら納得もいく」
問題は何処のバス停に赴き、彼が何処に向かったのか、である。
しらみ潰しに捜すのは時間の無駄だと玲は腕を組んで顔を顰めた。
場所は車内、車に戻った玲は蘭子達と婚約者の行方を追っている最中だった。
私立エレガンス学院の正門で口論に近いことを起こしてしまったものの、車に戻ったことでやや熱が冷え、冷静を取り戻しつつある。
果たしてそれが適切な状況判断ができる冷静さなのか、どうかは、本人自身にも分からない。
ただ動かなければ事態は変わらないと念頭にあったため、こうして車内で思案している。
「スマホのGPS。あれを辿るしかないな」
玲は結論付けた。
最後に電話が繋がった当時を思い出す。
あの時、彼は既にバスから降りていたに違いない。
何も応答してくれなかったが、玲の直感がそうだと確信を持たせていた。
現在スマートフォンのGPS機能を頼りに、召使達が確かめに行ってくれているが自分もそこに行くべきだと玲は考える。
よって車の目的地を知るため、蘭子に連絡してくれるよう頼む。
既に把握済みだと言ってくれる彼女は本当に頼もしい限りだ。
場所を問えば、「隣町二丁目地区の公園にございます」事細かなデータをくれた。
「公園か」しかしなんでまたそこに? 眉根を寄せる玲に、
「11年前にその公園前道路で交通事故が起きています」
だからでしょうね、蘭子が意味深に眉を下げた。
すべてを察した玲は、「そこまで覚悟を決めていたのか」本当にうそつきな婚約者だと舌打ちを鳴らす。
まったく事情が呑めていないさと子が視線を飛ばしてきたため、玲は簡単に説明した。
実親を亡くした場所なんだ、と。
「おおかた、気持ちに整理をつけてジジイのところに行こうとしたんだろう。僕に断りもなく…、何を考えているんだ。あの馬鹿は」
「玲お嬢様」さと子がそっと声を掛けてきてくれるが、玲には効果がなかった。
「こんなの許してなるものかっ。僕は許さない。うそつき過ぎる豊福の優しさにも、ジジイのやり方にもッ」



