『―――…待ってろ、空。必ず迎えに行くから』
耳障りな雑音に混じって聞こえてくる竹之内三女の決意に、「泣かせるねぇ」微笑ましい限りだよ、博紀は口角を持ち上げて耳を澄ませていた。
ハンドルを切りながら、イヤホンから聞こえて来る会話に一笑。
次いで助手席に視線を流す。
目に飛び込んでくるのは瞼を下ろして眠っている愚か者。
いや、気を失っているというべきだろうか。
ぐったりとこうべを垂らして四肢を投げている五つ年下の少年に博紀は肩を竦める。
「馬鹿だね。君は」
会長に逆らわなければ確立した未来が待っていたというのに。君は現実を甘く見過ぎている節があるよ。博紀は冷笑した。
「借金を負っている身分のくせに人を気遣うなんて愚かだよ。愛があれば何でも乗り越えられると思っているのかい?
だったら残念、愛は金を上回れない。
貧困だった君なら分かるだろ? 愛ってのは金銭の裕福を前提条件に感じられるものさ。金がなければ、心に娯楽もゆとりも与えられない」
金が無いと心は荒む一方だ。
シニカルに笑って気を失っている相手を見下す。
これから会長が彼にどんなことを強いるのかが愉しみだ、と思う時点で自分は底意地の悪い性格の持ち主なのだろう。
二重人格だとよく会長にお褒めの言葉を頂戴するが、まったくもってそのとおり。
表の顔は温厚でも、裏の顔はこれなのだから。
左にカーブすると体が大きく右に傾いた。
同乗者の体も傾くが彼は起きることなく瞼を下ろしている。
痛烈な一突きを食らわせたのだ。
ちょっとやそっとじゃ起きないだろう。
「アデッ!」
後部座席から声が聞こえた。
「は?」間の抜けた声を出してしまったのは博紀だ。
バックミラーに視線を向けるが、そこには誰もいない。
しかし今、確かに声を聞いた。
助手席に視線を流すが、彼に変わった様子はない。
……なにやら嫌な予感がする。
片眉根をつり上げた博紀だが停車する時間はない。
取り敢えず目的地に向かい、そこの駐車場で状況を確認することにする。
予定通り、目的地に着いた博紀は車のキーを抜くとすぐさま後部席へ。
誰も居ないことを確認した後、後部席と後ろドアのスペース、所謂トランクスペースを確認する。
自分の乗る車はSUVで開放型トランクなのだが……、博紀が後ろ扉を開けると雪崩のように何かが落ちてきた。
「アイタター! 狭いし暑いし苦しかった! 死ぬかと思った!」
地べたで尻餅をついている輩に博紀は絶句する。
「き、君は」
相手の素性を尋ねると、「やーっべ」向こうも硬直、見つかっちまったと冷汗を流した。
どうにか空気を和ませようと輩はてへっと笑って、ご挨拶。
「ちわーっす。みーんな大好き、三河屋です」
「……あの阿呆。どないすんねん」
某公園付近では額に手を当てている男子高生がいたとかいなかったとか。



