私立エレガンス学院の正門付近に到着すると、玲はすぐさま下車してさと子や蘭子と学院の正門に向かう。
念のために鈴理親衛隊(またを応援隊)に連絡を取って学内にいないか、確認してもらっているのだが、今のところ彼の姿は無いらしい。
それでも自分の目で確かめたく学院の敷地に飛び込む。
同時に「玲ではないか」との声。
聞き覚えのある声に、足を止めて顧みる。
正門前で車を停めさせ、下車してきたのは自分の好敵手だった。
「鈴理」目を見開く玲を余所に、「あんたのところにも空はいないようだな」鈴理は険しい顔で言葉を漏らした。
曰く、彼女は今、御堂家に向かっていたらしい。
理由を尋ねるまでもなかった。
彼女もまた婚約者の行方を追っている輩の一人なのだろう(しかし何故、彼の行方を追っているのだろうか?)。
遅れてやって来た大雅が「まーじかよ」豊福お前のところにいないのか? と、焦燥感を滲ませる面持ちを作った。
「君達は何故、豊福を?」
彼等に尋ねると、事細かに事情を聞かされる。
肉体関係の一件とそれに隠された裏事情を。
玲は絶句した。
肉体関係を持って財閥のパイプ役を強制しただけでなく、二財閥の取り扱っているデータを狙うよう指示していたなんて。
嗚呼、あの小癪なジジイならやりかねないことである。
「どーも空が変でな。あれほどスチューデントセックスを拒んでいたのに、突然あたしを誘うようになって。
強制されているんだなっていうことはすぐ分かったのだが、まさかデータを狙うよう指示されていたなんて。
今、あたしと大雅は財閥の提携企業のデータを取り扱っている。それは非常に重要なものでな。奪われていたら一たまりもなかった」
「データを奪われていたら二財閥は不安定になって最悪“共食い”されていたかもしれねぇ。三財閥の仲も最悪になっていただろうぜ。
豊福、そうなるのを避けてくれたみたいでよ。俺達の警戒も甘かったんだが、豊福が本当に命令に従っていたら、俺達おじゃんだった。まじで」
足元からがらがらと何かが崩れそうな、妙な錯覚に陥った。
察しの良い玲は彼等の証言によって気付いてしまったのである。彼に守られた、と。
常日頃から守ると約束してくれていた彼は文字通り、自分を守る選択肢を取った。
三財閥の仲を取り持ち、自分に安定した未来を提供するため。
彼のことだ。
自分の代替は沢山いるとでも結論付けたのだろう。
破談を承知の上で祖父に逆らい、自分のことを守ろうとした。
結果がこれだ。
嗚呼、何が王子だろうか。
「とよ、ふく。君は家族すら天秤にかけっ、僕を取ったのかい? ジジイに逆らえば、家族も危ぶまれると分かっていたくせに」
不本意にも感じるのは彼の愛情である。
まさかこんな形で感じるとは夢にも思わなかった