「貴方はもう豊福家に帰れませんよ」



俺の疑問に博紀さんが前を向いたまま答える。

目を丸くする俺を余所に、「貴方は御堂家に買われた身」親権があろうと向こうの家族には返さないし帰さない、淡々と説明して助手席の扉のノブに手を掛ける。


「この意味が分かりますね?」


顧みる博紀さんの醜悪な笑みにゾッと鳥肌を立たせてしまったのはこの直後。
 

俺が考えるより、ずっと事は重いようだ。

俺的には借金生活が本格的にスタート。

淳蔵さんが条件付けた一ヶ月に八.五万を稼ぐため、学校を辞めるってシナリオを考えていたんだけど……嗚呼、考えが甘かった。
 


絶句する俺を愉快そうに一瞥し、博紀さんが助手席の扉を開ける。



「それにね、空さま。貴方は御堂家のために一つだけしてくれたことがありますよ」


えっ、瞠目する俺の体を引いて「だから貴方は子供なんです」目付けが軽く顎を掬ってくる。


「子供は自分の起こした行為をこれでよし、もう大丈夫、で片付けてしまう。それが本当かどうかも分からずに、ね」

「どういう、意味―――…っ」


鳩尾に痛みが走った。

くらっと歪む世界。呼吸の仕方を忘れ、視界一杯に閃光が走る。

急にどうしたのだろうか、把握する間もなく俺の意識は奈落の底に吸い込まれていく。


地獄?
俺は地獄に落ちるのだろうか?

いやもう俺は地獄に落ちている。



我が身可愛さから導き出した地獄に、おれは。
 


「貴方は僕のUSBメモリを向こうに渡してくれました。おかげで向こうの動きが手に取るように分かったんです。ふふっ、貴方の優しさが仇になりましたね」
 


おやすみなさい、せめて今だけは良い夢を。


見えない世界の向こうで博紀さんが嘲笑している気がした。
 


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