どうすればいいか分からず、苦肉の策として俺は想像力を働かせ、事の重さを天秤に掛けてみることにした。
もしも淳蔵さんの指示に従ったら、きっと俺は大切な人を守れるだろう。愛育してくれた両親だって守れる。
代わりに俺は御堂先輩の好意を裏切り、鈴理先輩の気持ちも踏み躙ることになる。
大雅先輩との関係も壊すことになり、次世代の御堂家。竹之内家。二階堂家の友情、信頼、キズナを決壊させるだろう。
三人は幼馴染だ。
仲も良い。
それを俺の行為ひとつですべてを壊すなんて。
それだけじゃない。
二財閥に関わっている企業にだって影響が出る。
俺の行動で多くの人を不幸にしてしまう可能性だってあるんだ。
とてもじゃないけど、恐ろしくておそろしくて行動を起こせそうになかった。
じゃあ逆を選択したら?
前述のことが全部ひっくり返る。
三人の友情は問題なく継続するだろう。が、俺は一番守りたい両親を守れず、親不孝なことをしてしまうだろう。
被害は前述に比べると小さい。
だけど俺にとって育ての親は本当に大切でたいせつで。
身寄りのなくなった俺を本当の息子として可愛がってくれた。
自分達の生活を圧迫するだけなのに、実親を亡くした俺を施設じゃなく自分達で引き取ってくれた。居場所になってくれた。愛してくれた。
これから先のことを考えると、俺は二度も親不孝なことをしたくなかった。いつまでもあの人達の息子でありたい。
結果、針山地獄も、灼熱地獄も怖くて選択できなくなった。
余計想像したら怖くなっちまったんだ。
でも、分かっていた。
本当に取るべき選択肢はどちらなのか、想像した時点で分かっていた。
俺のすべきことはどっちなのか、良心の呵責により見出していた。
それでも追い詰められた俺にはどっちも選択できなくて、想像しただけで手が震えて、脂汗もドッと出て、胃がムカムカして。
表向きじゃへらへらしていたけど、内心じゃ誰かに縋りたくてしょうがなかった。
勉強をする振りをして何度、お守りの写真立てに縋ったことか。
後にも先にも行けず途方に暮れていた時、俺は母さんからお守りとして託されたテレフォンカードの存在を思い出した。
どっちを取るべきか分かっていたからこそ、両親の声が聞きたくなったんだ。
携帯電話や御堂家の固定電話は使用できなかったし、誰かに会話を聞かれるのは怖い。
なら公衆電話を使って親に連絡してみよう。
もしも両親が頑張れって言ったら、俺は両親のため、自分の幸せのために頑張ろう。そう思ったらちょっとだけ不安が和らいだ。
単独行動を起こすのは苦労しなかった。
習い事の帰りにちょっと寄り道したいからと迎えの車に言い、駅で降ろしてもらった。
駅構内で公衆電話を使用して、早速俺は自宅に電話。
三コールで出てくれた母さんと、ちょっとだけ世間話をした後、冗談交じりで婚約駄目になるかもしれない、と言ってみた。
ごめーん的なノリで言ってみたんだ。
まあなんてご冗談を。
借金もあるんだし頑張りんしゃい、そう言ってくれるのを期待したんだけど。
よく事情も分かっていないのに母さんの返答は、『空さん頑張りましたね。これからは三人で頑張りましょう』だった。
予想外だった。
切羽詰っていた俺にとって、両親こそが最後の砦。親がこう言ったから、だから頑張ろう。
その理由付けが欲しかったんだ。
なのにそんなことを言われちゃ言葉も失ってしまう。
駄目になるかもしれないんだよ?
借金どうなっちゃうか分からないんだよ?
念を押して聞いてみたけど、『空さんの味方ですよ』としか母さんは言わないんだ。寧ろ、褒めてくれてさ。



