それでも最初こそ今までの彼を見よう信じようとした。
あれは夢だ幻だと言い聞かせた。
だが信じられなかった。
彼が玲に優しく接する度に偽りの優しさではないかと疑心を抱き、甘えさせている行為に対しては、金のためではないかと眉根を寄せた。
表で良い顔をしていても、裏ではヘーキな顔をして別の女性と戯れているような気がしてならなかった。
そうして疑心が風船のように膨らみ、ついに弾けて相手に物申してしまったのだとさと子は肩を落とす。
「お友達として信じたかったんです。だけど、どうしても駄目でした。どうしても」
チラッと此方の様子を窺ってくるさと子を余所に、玲は頭が真っ白になった。
祖父がそんなことを命じたのか。
自分の知らないところで、自分が見ていない聞いていないところで。
肉体関係の命令にショックを受けたわけではない。
祖父に命令され、それを強要させられている彼の現状を知らなかった自分にショックを受けている。
さと子に名を呼ばれてハッと玲は我に返り、「さと子!」最近彼の行動に不可解な点はなかったか! と両肩を掴んで詰問する。
完全に狼狽したさと子は、そういえば、最近、自室を掃除をよくするようになりましたとしどろもどろに答える。
「よく掃除を? それってまさか身辺整理……、じゃあ、あいつ!」
腰を上げ、サンダルを脱ぎ捨てて家内に上がる。
「お嬢様!」
慌ててさと子が追ってくるが、構う余裕なく玲は婚約者の使っていた部屋の障子を勢いよく開ける。
一見変わりない和室部屋だが、机に視線を流して驚愕した。
彼の私物が殆ど無い。
使っていた教科書も、ノートも、資料集も。
何よりショックだったのは彼が大事に眺めていた写真立てが二つ、綺麗に姿を消していたこと。
お守りとして持ってきたのだと語っていた彼の笑顔を思い出し、何故それが机上に無いのか、その現実に玲は混乱してしまう。
彼がもしもこれからも此処にいるなら、机上に置いておけば良い話なのだ。
これまでどおりに机上に飾っておけばいい。
しかし写真立てが、生みの親と育ての親の写真がなくなっている。つまり、それは、彼自身の決意の表れ。



