「豊福に拒否権はなかったし、僕自身異論はなかった。そうして今の僕達がいる。これが不純の関係の裏事情さ。簡単に言えばまだ、僕の片思いといったところかな」
「……あんなに睦まじくされていたのに」
「友達以上で見てくれている自信はあるさ。
あいつにだって僕を想ってくれるところは沢山ある。僕はそれを感じ取っているよ。
あいつはまだ鈴理のことを想っている節があるが、僕と鈴理は別個にして見てくれている。それをちゃんと分かっている」
「もしかしてさと子は」鈴理と豊福の関係を知って怒ってくれていたのかな? 彼女の頭に手を置き、笑みを零す。
先日あった会合でなんらかの拍子に二人の関係を知り、さと子が憤っているのだろうと玲は考えた。
それはそれで嬉しいのだが、やはり二人には仲良くしてもらいたい。
気にしなくていいんだよ、そう告げるとさと子は首を横に振った。
「空さまのこと」
ますます信じられなくなりました。ハッキリ言って二股です。
頑なに拒むさと子に、玲はどうしたのだと瞬きを多くした。
何がそんなに彼女を苛立たせているのか、玲には見当もつかなかったのである。
二股という単語も引っ掛かる。
まどろっこしい物の言い方もじれったいため、さと子に事情を話してくれるよう尋ねた。
間違っても彼は二股をするようなタイプではないのだが。
彼はどんなに相手に攻められようと、付き合う相手としか求めてスキンシップは取り合わないのだ。
無理やり押さえつけられてあーやこーやされることはあれど、付き合っていない相手には拒絶することが多い。自分もその類にされていた。
「でも話したらお嬢様が」傷付くかもしれない、さと子が躊躇いを見せた。
「仮に二股していたら」僕が調教し直すから、と物騒なことを吐いて安心を与える。
果たして安心を与えたのかどうかは分からないが、さと子は一呼吸置くと重たい口を開き始めた。
「お嬢様の、舞台を観た日。会合がありましたよね? そこで私、見てしまったんです。大旦那さまと空さまが会話しているところを」
「え、豊福がジジイと?」
寝耳に水だと目を見開く玲。
これは会場に入る前の話だとさと子は教えてくれた。
手洗いに行った時に自分は見てしまった。
大旦那と空が場所を移動し、会話しているのを。
大旦那は空に告げていた。
竹之内家の三女と肉体関係を持ちなさい、と。
意中関係だった彼なら必ず、肉体関係を持てる。
これは命令だ。
必ず肉体関係を持ちなさい、と。
その時、さと子は信じていた。彼なら必ず拒絶すると。
しかし現実の彼は嫌な顔一つせず、承諾の二文字を口にしていた。
それが望みなら必ず肉体関係を持ってみせる、彼は断るどころか断言したのだ。
幾ら借金があるとはいえ、あっさり引き受けるなんてどういう神経をしているのだろう?
睦まじい仲は偽りだったのか?
傍にいて和気藹々と戯れていたあの時間は?
信じられない光景を見たと同時にさと子は絶望した。
我が目を疑いたかった。
上京して一番に仲良くなった友達が、まさか、そんなことを容易く承諾する輩だったなんて。
居ても立ってもいられずさと子はその場から逃げ出した。
彼等の会話をこれ以上聞きたくなかったのだ。



