前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「豊福に拒否権はなかったし、僕自身異論はなかった。そうして今の僕達がいる。これが不純の関係の裏事情さ。簡単に言えばまだ、僕の片思いといったところかな」

「……あんなに睦まじくされていたのに」


「友達以上で見てくれている自信はあるさ。
あいつにだって僕を想ってくれるところは沢山ある。僕はそれを感じ取っているよ。

あいつはまだ鈴理のことを想っている節があるが、僕と鈴理は別個にして見てくれている。それをちゃんと分かっている」


「もしかしてさと子は」鈴理と豊福の関係を知って怒ってくれていたのかな? 彼女の頭に手を置き、笑みを零す。


先日あった会合でなんらかの拍子に二人の関係を知り、さと子が憤っているのだろうと玲は考えた。


それはそれで嬉しいのだが、やはり二人には仲良くしてもらいたい。

気にしなくていいんだよ、そう告げるとさと子は首を横に振った。
 
「空さまのこと」

ますます信じられなくなりました。ハッキリ言って二股です。

頑なに拒むさと子に、玲はどうしたのだと瞬きを多くした。


何がそんなに彼女を苛立たせているのか、玲には見当もつかなかったのである。
 

二股という単語も引っ掛かる。

まどろっこしい物の言い方もじれったいため、さと子に事情を話してくれるよう尋ねた。

間違っても彼は二股をするようなタイプではないのだが。

彼はどんなに相手に攻められようと、付き合う相手としか求めてスキンシップは取り合わないのだ。

無理やり押さえつけられてあーやこーやされることはあれど、付き合っていない相手には拒絶することが多い。自分もその類にされていた。


「でも話したらお嬢様が」傷付くかもしれない、さと子が躊躇いを見せた。

「仮に二股していたら」僕が調教し直すから、と物騒なことを吐いて安心を与える。


果たして安心を与えたのかどうかは分からないが、さと子は一呼吸置くと重たい口を開き始めた。


「お嬢様の、舞台を観た日。会合がありましたよね? そこで私、見てしまったんです。大旦那さまと空さまが会話しているところを」

「え、豊福がジジイと?」


寝耳に水だと目を見開く玲。

これは会場に入る前の話だとさと子は教えてくれた。

手洗いに行った時に自分は見てしまった。


大旦那と空が場所を移動し、会話しているのを。


大旦那は空に告げていた。

竹之内家の三女と肉体関係を持ちなさい、と。


意中関係だった彼なら必ず、肉体関係を持てる。

これは命令だ。
必ず肉体関係を持ちなさい、と。
 

その時、さと子は信じていた。彼なら必ず拒絶すると。

しかし現実の彼は嫌な顔一つせず、承諾の二文字を口にしていた。

それが望みなら必ず肉体関係を持ってみせる、彼は断るどころか断言したのだ。


幾ら借金があるとはいえ、あっさり引き受けるなんてどういう神経をしているのだろう?

睦まじい仲は偽りだったのか?

傍にいて和気藹々と戯れていたあの時間は?


信じられない光景を見たと同時にさと子は絶望した。

我が目を疑いたかった。


上京して一番に仲良くなった友達が、まさか、そんなことを容易く承諾する輩だったなんて。

居ても立ってもいられずさと子はその場から逃げ出した。


彼等の会話をこれ以上聞きたくなかったのだ。