家に帰宅すると、玲は自室に向かい、机上に鞄を置いた。
次いで婚約者が帰っているか確かめるため、庭掃除をしているさと子に声を掛ける。
近くにいた女中ではなく、さと子に声を掛けたのは勿論意図があってのことだ。
あからさましょんぼりした面持ちで同じ場所を掃いているさと子は、玲の呼びかけに反応。問い掛けには首を横に振った。
なるほど、婚約者はまだ帰宅していないのか。
だったら丁度良い機会だ。
玲はさと子に掃除を手伝うと申し出た。
キョドる彼女に、「一人じゃ大変だろ?」それに君とゆっくり話をしたいしね、とウィンク。
決まり悪そうに承諾するさと子が予備の竹製の熊手を手渡してくる。
ありがとうと一笑した玲は、単刀直入に婚約者と喧嘩でもしたのかい? とクエッション。
「そんなこと」言葉を濁すさと子に、「そんなことあるだろ?」此処は女同士、気兼ねなく話せるぞ。
玲は苦笑いを零した。
唇を尖らせるさと子は頑なに心情を吐こうとしない。
はてさて、そんなに酷い喧嘩をしたのだろうか?
今朝の様子を思い返して玲は首を傾げた。
そんな様子、自分が見た限りじゃなかったのだが。
「豊福が何か悪いことをしたなら、僕が叱ってやるから。不機嫌ばかりだと可愛い顔が台無しだぞ」
さり気なくさと子の肩を持つが様子は変わらない。
「僕は二人の笑った顔が好きなんだ」
ギクシャクな関係を維持されたままじゃ自分が参ってしまう。
そうおどけ、熊手で庭の落ち葉をかき集める。
五分ほど沈黙が続いた後、ようやくさと子が口を開いた。
「今の空さまとじゃ仲良く出来ません」と。
首を捻って彼女に視線を止めると、今の婚約者は信じられないのだと漏らした。
「あの方は本当に、その、お嬢様のことが好きなのかと疑心を抱いてしまって。お嬢様は空さまのこと、お慕いしているんですよね? 何処が好きなのですか?」
まさか自分のことが話題に出ると思わなかった。
しかも好意の点で質問されるなんて。
「どうしてそんな質問を?」顔を渋る玲に、「えっと。その」さと子がゴニョゴニョと言葉を濁してしまう。
これでは話が進まない。
仕方がなしに玲の方から答えることにした。
「あいつのことはとても好きだよ」と。
「何処が好き。んーっ、はっきり言えば僕の一目惚れだったんだ。
容姿とかではなく、あいつの相手を想う姿勢が、無性に守りたくなって。意地と見栄ばっかり張るところが特に。受け身の癖に変なところで男になるところか」
さっきさと子が疑心を抱いたと言っていたことだけど、なんで君がそう思っているかは知らない。
君にも思うことがあってそう発言しているのだろうし、それによって豊福との仲がギクシャクなったのもなんとなく察しがついた。
だったら正直に言おうか。
豊福は僕のことを好き、ではないと。
勿論友達同士では好きだが、婚約者同士での好きではない。
僕と彼の好きの比重は異なっている。
僕は豊福のことを一男性として好きだが、豊福は僕のことを一女性として守りたいと思っている。
お互いに大切にしたいという気持ちは宿っていれど、やはり気持ちの比重が違うんだ。
それがネックになったりするんだが、仕方がないことだと思う。事情があるからね。



