彼に気付いた宇津木先輩は可笑しそうに笑い、楓さんを笑顔で迎えていた。
「慌てて来たんですね」
ネクタイがめちゃくちゃですよ、宇津木先輩に指摘されて、あわあわと楓さんはネクタイを解く。
そしたら宇津木先輩、自分が締めてあげますからと、綺麗にネクタイを結び始めた。
恥ずかしそうに頬を掻く楓さんは、いつもすみませんと照れ笑い。
どうやらいつもの光景らしい。
俺は流し目で大雅先輩を見た後、「お兄さんって」物凄いおっちょこちょいなんですか、とありきたりな質問を飛ばす。
大袈裟に溜息をつく大雅先輩は重々しく肯定した。
「兄貴はいっつもああなんだ。誰よりもお人好しで、ドジばっか踏んで…、二階堂財閥の先導に立てるのか懸念されてるほどのおっちょこちょい。
弟の俺が二階堂財閥を任せられるかもしれねぇくらい頼りない。
まあ、兄貴も努力はしてるんだけどな」
けど、あれが長所なのかもしれねぇ。
ドジでマイペースな兄貴だけど、どんな奴にも優しくできる奴だからな。
人の痛みをよく知ってるし、嬉しい時には一緒に喜んで、悲しい時には一緒に泣く、そんなバカだ。人からは好かれやすい。
何かあれば自分のことなんてお構いなしに手を差し伸べる。
人のことになるとスッゲェ強くなるしな。
そうやって俺や許婚のことも守ってきた。認めたくない現実だけどな。
―――…だからこそ兄貴だったら赦せるんだよ、百合子のことは。
最初から兄貴と百合子の間には割って入れねぇって分かってるしさ。
兄貴自身にも多分、俺は幸せになってもらいたんだって思ってる。
嫉妬もするっつーのに、なんでだろうな。
百合子や兄貴がああやって笑ってる姿見ると、心底ホッとするんだ。
俺自身、あの光景が嫌いじゃないのかもしれない。
いつか百合子が義姉になる日が来るなら、俺はそれを十二分に覚悟しているつもりだ。
兄貴の面子を立たせる、弟ってそういう身分でもあるんだと思う。
一般家庭に生まれたらこんなことにならなかったかもしれねぇけどな。



