前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「今日は八ツ橋ですよ」


こしあんとチョコレートと抹茶の三味が楽しめるようになっています。

説明してくれる口調はいつものさと子ちゃんなんだけど、なんだろう、空気が機械的。

事務的というか、友達として接しているというより召使主人で接している感じだ。


ただの気のせいだったらいいんだけど、今日に始まったことじゃないんだよな。この違和感。


数日前から続いているから気のせいから確信に変わりつつある。


俺、さと子ちゃんに何かしたっけ?

あの会合の夜からどーも避けられている気がしてならない。


心中で首を傾げつつ、俺はUSBメモリを静かに机上に置くと踵返してテーブルに向かう。


「御堂先輩は?」腰を下ろして婚約者の予定を聞けば、「今日は部活です」なんでも新しい芝居の配役が決まるんだとか。

そのミーティング後には教養を補う華道があるらしく、帰宅時間が遅くなるらしい。


もう次のお芝居にうつるのか、凄いな。先日あんな大掛かりな中世ヨーロッパの劇をしたばっかなのに。

先輩のいる部活は本格的なのかな?


急須から注がれる薄茶を眺めながら物思いに耽っていると、湯飲みが目前に置かれた。
 

「ありがとう」微笑を向けると、「いいえ」微笑を返される。


そのやり取りはいつものもの、けれど妙に壁を感じる。やっぱりこれは気のせいじゃない。

違和感に気付いたけど敢えて触れないようにするのは、聞いた後の気まずさを回避するためだ。

あからさま変じゃない? って聞いてもさと子ちゃんの性格上はダンマリになるだろう。

俺もその空気でダンマリになるだろうから触れられない。
気まずさは回避したいんだ。


業務が終わるとさと子ちゃんは部屋から出て行ってしまった。

普段ならもっと会話を交わして去って行くんだけど。


目で背を見送り、俺はその眼を細める。


思うところは多々あるけど、今はそっとしておこう。俺もあんま余裕が無いから。

ズズッと茶を啜って喉を潤す。立ち昇る湯気を見つめた。

おやつを食べ終わったら机を綺麗にしないとな。


後で雑巾を借りよう。

習い事も何も無い一日なんだ。


ゆっくりできるし、少しは家のことで体を動かさないと。


(御堂先輩って聡いから、慎重に行動を起こさないとな。すぐに俺の異変をさとる人だから)


まさか浮気まがいなことをしているとは思わないよな。しかも相手が元カレだなんて。


はぁああ、俺ってどんどんいけ好かないキャラになってるんじゃね?

俺が彼女なら、「浮気? なによあんたサイテー!」で往復ビンタをかますところだ。


……最低だと分かっていても、やるべきことはしないと。


拒む理由なんて何処にも無い。

そう、何処にも。


「あ。茶柱」


湯飲みの中に浮いている一本の小さな幸せを見つけ、俺は目尻を下げた。

何かイイコト、あるといいな。