「今日は八ツ橋ですよ」
こしあんとチョコレートと抹茶の三味が楽しめるようになっています。
説明してくれる口調はいつものさと子ちゃんなんだけど、なんだろう、空気が機械的。
事務的というか、友達として接しているというより召使主人で接している感じだ。
ただの気のせいだったらいいんだけど、今日に始まったことじゃないんだよな。この違和感。
数日前から続いているから気のせいから確信に変わりつつある。
俺、さと子ちゃんに何かしたっけ?
あの会合の夜からどーも避けられている気がしてならない。
心中で首を傾げつつ、俺はUSBメモリを静かに机上に置くと踵返してテーブルに向かう。
「御堂先輩は?」腰を下ろして婚約者の予定を聞けば、「今日は部活です」なんでも新しい芝居の配役が決まるんだとか。
そのミーティング後には教養を補う華道があるらしく、帰宅時間が遅くなるらしい。
もう次のお芝居にうつるのか、凄いな。先日あんな大掛かりな中世ヨーロッパの劇をしたばっかなのに。
先輩のいる部活は本格的なのかな?
急須から注がれる薄茶を眺めながら物思いに耽っていると、湯飲みが目前に置かれた。
「ありがとう」微笑を向けると、「いいえ」微笑を返される。
そのやり取りはいつものもの、けれど妙に壁を感じる。やっぱりこれは気のせいじゃない。
違和感に気付いたけど敢えて触れないようにするのは、聞いた後の気まずさを回避するためだ。
あからさま変じゃない? って聞いてもさと子ちゃんの性格上はダンマリになるだろう。
俺もその空気でダンマリになるだろうから触れられない。
気まずさは回避したいんだ。
業務が終わるとさと子ちゃんは部屋から出て行ってしまった。
普段ならもっと会話を交わして去って行くんだけど。
目で背を見送り、俺はその眼を細める。
思うところは多々あるけど、今はそっとしておこう。俺もあんま余裕が無いから。
ズズッと茶を啜って喉を潤す。立ち昇る湯気を見つめた。
おやつを食べ終わったら机を綺麗にしないとな。
後で雑巾を借りよう。
習い事も何も無い一日なんだ。
ゆっくりできるし、少しは家のことで体を動かさないと。
(御堂先輩って聡いから、慎重に行動を起こさないとな。すぐに俺の異変をさとる人だから)
まさか浮気まがいなことをしているとは思わないよな。しかも相手が元カレだなんて。
はぁああ、俺ってどんどんいけ好かないキャラになってるんじゃね?
俺が彼女なら、「浮気? なによあんたサイテー!」で往復ビンタをかますところだ。
……最低だと分かっていても、やるべきことはしないと。
拒む理由なんて何処にも無い。
そう、何処にも。
「あ。茶柱」
湯飲みの中に浮いている一本の小さな幸せを見つけ、俺は目尻を下げた。
何かイイコト、あるといいな。



