「な、ナニを突然」
お、おおぉおお俺はそんなこと一抹も思っちゃねぇぞ。マジで、ほんとにマジで!
かーなり動揺している婚約者は冷静になろうと書類を拾うが、順番も方向もバラバラである。
「ゆ、ゆゆゆ百合子が大体」
そんなこと思うわけねぇべ、うん、ねぇべ。
あいつは電波少女だ。
宇宙語を話すことがあってもそんなヤーラシイことを言うわけがねぇべ。
話が一向に進まないため、「例え話だ」と強調。
「た。たとえ?」
そ、そうだな。お茶くれぇはしてぇな。
……駄目だこりゃ、完全にミートロールのロールの部分が発揮されている。ドヘタレになってしまっている。
「まあ、普通はあんたみたいに動揺するよな。あたしも今、同じ心境なんだ」
「同じ? ……なんだ、まさかあの豊福から誘われたとか? そりゃねえだろ。あのヘタレに限って」
あんたも底知れぬドヘタレだよ。
内心でツッコミを入れつつも、表には出さず、ただ溜息で返答する。
鈴理の面持ちで真実だと理解を示したのだろう。
「何の意図があってだ?」
大雅が冷静に分析をし始める。
好意を寄せてのことじゃないだろう? あいつには婚約者がいるんだから。
ご尤もな意見に鈴理は吐息をつき、「分からない」と返した。
竹之内財閥と繋がりたいから、それを言っても良かったのだが気が引けてしまい、言葉を濁してしまう。
彼は竹之内財閥と御堂財閥のパイプ役として自分を標的にし、肉体関係を求めてきたのだろう。
自分と既成事実を作ってしまえば、ある意味、財閥同士に秘密ができ、自分達の間で危うい関係ができる。
その危うさを糧にしたいがために、財閥同士の繋がりを求めてきた。
どんな昼ドラ展開だ。
今時の昼ドラだってそんな展開なんぞ採用しないだろう。
「第一それ、豊福の意思か? ぜってぇちげぇだろ。さしずめ玲のじっちゃん辺りの命令っぽいぜ、それ」
後輩の本意でないことくらい鈴理にだって容易に見抜いていた。性格を十二分に把握している。
だからこそ、何も言えないのである。
「美味しい展開だが、あたしは不倫関係のようなコソコソした関係にはなりたくないのだよ。何故あたしが浮気相手みたいな立ち位置に!」
「そのとおりじゃねえか」
「ケータイ小説での浮気をテーマに取り扱った作品は、非常に萌えるのだが、リアルは論外だ。浮気などしても双方に溝を作るだけだ」
あたしは玲とも、空とも、関係を崩したくない。
鈴理が吐露すると、「だったらそれを貫けばいいんじゃね?」大雅が冷然と返す。
悩む必要など無い。
お前が思ったようにすればいいだけだと婚約者は告げた。
他人行儀な言い方だな、棘のある言葉を送ってやれば、「俺ならそうする」彼は肩を竦めた。
「百合子が求めてきても、俺はあいつを抱かねぇ。あいつには兄貴がいる。結局傷付くのは求めてきた百合子自身だ。俺は抱かない」
「大雅……」
「あんましつけぇようなら、俺が殴ってきてもいいぜ? 悪役は慣れちまってる」
鈴理は力なく笑い、遠慮すると返した。
自分は婚約者や意中の傷付く姿を見たくないのだ。
気持ちだけ受け取っておく、彼に一笑し、鈴理は車窓に目を向けた。
「勝負。どうすんだ? まさか此処まできて諦めるのか? このままじゃ俺、受け男になっちまうんだが?」
大雅の見越した問い掛けに乗ってやる。
「勝負は放棄しない。あたしはやれるところまでやってみるさ。これは空でも止められない、あたしの意思だから―――…」



