「ベルギー産のチョコレートもありますよ」さと子ちゃんが明るく励ましてくれたけど、俺はヘタレるばかりである。
ホンット帰りどうしよう。
まったく高所恐怖症を克服できていない現実に直面して激しく自己嫌悪していると、「空」鈴理先輩が声を掛けてくる。
エレベーターに同乗していた彼女は俺のヘタレっぷりにも笑わず、「進歩している」あの頃に比べたらずっと良いと優しさを向けてくれた。
ならいいんっすけどね。
投げやりに返しても、「いつからあんたを見ていると思っているんだ」進歩しているに決まっているさ、あたし様が口角を持ち上げた。
「少なくともそこの自称王子様よりは長く見ている。だから明言できるさ」
グイッと御堂先輩が眉根をつり上げる。
「聞き捨てなら無いな。誰が自称王子だって?」
「本当のことだ。玲はあたしの所有物をスリしたのだ。立派に犯罪をしたのだからそれくらいの嫌味は吐くぞ」
「すッ……、君って女はいつ口を開いても非礼なことを。君の判断の甘さが招いた未来だろう? せいぜい大雅を受け男にするんだね。
あーそうそう、破談の進行はどうなんだい? 見たところ、お二人はとーってもラブラブのようだが」
婚約者がストレートに毒言する。
その毒の強さはフグの毒並みだ。とにかく耳で聞けばすぐ分かるほどの毒を御堂先輩は吐き捨てた。
「ラブラブなものか!」
あたしは攻め不足によりとても欲求不満だ、と鈴理先輩がしかめっ面を作る。
次いで大雅先輩の腕を取ってそのままがぶり。
……する筈だったんだけど、そうはさせないとばかりに彼女の婚約者が肩に掛けていた通学鞄から赤と青の渦巻状の模様が描かれているペロペロキャンディを取り出し、それを鈴理先輩の口に突っ込んだ。
むっと眉根を寄せる鈴理先輩がまたヤラれたと口からキャンディを取り出して一舐め。
どうやら噛み付き防止策らしく、事あるごとに大雅先輩がこれをキャンディを使用するらしい。
駄菓子屋で買い占めたと彼はのたまっていた(いいな! キャンディ、いいなぁ!)。
「一日一回は噛み付いてきやがるんだ。ったく、これじゃ飼い主と飼い犬だぜ」
「大雅。まさかあたしを犬呼ばわりする気じゃないだろうな?」
ガジガジガジとキャンディを齧っている鈴理先輩がじろっと大雅先輩を睨む。
「他に誰がいるってんだ? ほねっこじゃテメェ、キレるだろ?
はぁああ、あと二週間だってのに進展はイマイチだ。そんでも玲には悪いけどよ、鈴理に勝負を勝ってもらうつもりだぜ。じゃねえと俺の身が持たねぇ!」
欲求不満の鈴理先輩を世話するのはとても大変なようだ。
これでも彼氏をしていたから彼女の行動力の凄さは理解している。
俺以上に付き合いの長い大雅先輩でさえ苦労しているんだ。
その手の焼きようは半端なものじゃないだろう。
それにしても。



