特別失いたくない人なんだ。
守りたいと強く思い願うのも、婚約者だからじゃなく、借金があるからでもなく、それまで彼女が向けてくれた想いや行為が俺に届いて念を強くさせている。
「貴方がこれからも同じ行為を繰り返すのなら、俺もそれだけ、同じことを繰り返します。それが今の、貴方に対する俺の気持ちなんです」
例え貴方が憤りを感じようと、貴方が繰り返すのなら、俺も繰り返します。
努めて平坦な声で返事する俺の台詞は静まり返っている医務室に漂う。
窓ガラスの向こうでは微かに女子生徒達の声が聞こえた。
彼女達は観客なのだろうか、それとも舞台スタッフさんなのだろうか、判断がつかない。
ただ甲高い笑い声を出しているから、ステージの事故は存じ上げないようだ。
「お仲間さんは大丈夫だったんでしょうかね」
いつまでもぬくもりの共有をしておきたかったけれど、静寂は妙に居心地が悪い。
俺は話題を切り替えた。
御堂先輩も仲間の安否が気になるところだろう。
自分に構わず、仲間の下に行って欲しいと告げた。
こっちはセットに足が挟まれただけ、打撲程度で済んだんだ。軽傷も軽傷だろう。
対照的にあの女子生徒はもろセットの下敷きになった。
頭から血も出ていたし、下手をしなくても病院行きは確定だろう。
現状を知るためにも一部員として仲間の下に戻るべきだと俺は助言した。
拍数を置いて御堂先輩は「もう少しだけ」、仲間の安否は気になるけれどもう少しだけ、この至福に浸らせて欲しいと我が儘を口にした。
状況が状況なだけに不謹慎。
けれど俺は彼女の気持ちを受け入れる。
俺もまた、知らず知らずに動揺していた気持ちや不安を払拭したいから。
ぬくもりを共有すればするほど甘い匂いが鼻腔を擽る。先輩の匂いだ。安心する甘い匂い。
「ふふっ、先輩の制服姿、やっと見られましたよ。スカート姿、可愛いっすよ」
そういえば、と俺は彼女の身なりを思い出し、その服装を褒めた。
嬉しくないと返事されるけど、嘘偽りはないよ。セーラー服姿の御堂先輩は可愛い。
「学ランもいいっすけど」
セーラーも捨てがたいっすねぇ。
セーラーは男のロマンっすよ、親父くさい発言をすると彼女がべりっと俺を引き剥がし、両頬を包んで自分側に引き寄せる。
噛み付くようなキスを仕掛けられた。
歯が唇に当たってアイテテ、である。
でも照れ隠しなのは分かっていた。
一本取った気分になってへらっと笑ってしまう。攻め女は皆して守備力が弱いんっすねぇ。
決まり悪そうにしているのは御堂先輩だ。
「僕は口説き専門だぞ?」
口説かれる趣味はないと頬を上気させ、小さく呻いた。



