差し出されたアイスノンを受け取り、俺は礼を言う。
スツールの上に右足をのせ、左足を組んで早速患部に当てる。
容赦ない冷たさに肌が粟立った。
軽く顔を渋めながら軽く腫れた患部にアイスノンを当て続ける。
俺の隣に座る御堂先輩は間を置いて、「どうして無茶をしたんだい」俺にお叱りの言葉を飛ばしてきた。
声音は平坦だけど、含みある感情は確かに棘をまとっていた。
「それは貴方も同じことが言えるっすよ」
反抗的な眼を返して俺は鼻を鳴らす。
もしかしたらあの時、御堂先輩も一緒にセットに潰されていたかもしれない。
そう思うだけで俺は恐怖に慄く。吐露しても御堂先輩は納得した面持ちを作らない。寧ろ、咎めの眼光が鋭くなった気がする。
「君は一観客だった」
なのに、こんな無茶をして。幾ら守りたいという気持ちがあっても、僕は嬉しくない。
王子は苦言した。確かに御堂先輩の気持ちは分からないでもない。
さっきの出来事は部内のことであり、俺は完璧な部外者。
俺に何か遭ったら部は余計な責を追わないといけない。
俺のしたことは人助けと同時に、厚かましい節介だろう。
けど、御堂先輩も分かっていない。
俺が動いたのは貴方を婚約者として守りたい、だけじゃない。
きっと貴方には分からない。あの時の俺の気持ち。
目の前で大切な人を喪うかもしれない、その恐怖心。
「もう、喪いたくない」
「豊福?」
「目の前で誰かが怪我するところは見たくない。喪ったら今度こそ俺は立ち直れない。喪うのは嫌だ。いや、だから」
口にすることでトラウマが蘇る。
両親が俺の目の前ではね飛ばされた忌まわしい記憶。
何も出来なかった。
俺は何も出来ず、ただただあの人達を見殺しにしてしまった。
俺の我が儘のせいですべてを終わらせてしまった。
そう、フラッシュバックしたんだ。
御堂先輩の起こした行為と、幼少時に見た事故が。
忘れていた記憶が今、こうして鮮やかに思い出せるのはそれだけ俺にとってショックな出来事だったからだろう。
重なる事故の場面に目の前が真っ暗になりそうだった。
もし御堂先輩がセットに潰されて重傷を負ったら?
それだけじゃない。
打ち所が悪くて死んでしまったら?
御堂先輩じゃなく、別の人が貴方と同じ行為を取っていたら俺は傍観者として終わっていた。
体育館出入り口でたじろいでいただけに終わっていた。
けど無茶したのが先輩だったから。先輩だったから。
―――…いやだ、もういやだ! 大切な人を喪いたくない。その気持ちばかりが胸を占め、気付けば無茶をしていた。



