鈴理先輩には大雅先輩という良き理解者がいる。


彼は俺より彼女のことを理解している。

嫌味じゃなくてこれは本心から思っている。


それを知っているからこそ、俺は御堂先輩を選ぶんだ。

いやそれがなくても俺は彼女を選ぶんだと思う。

彼女の脆さを知ってしまったからこそ、俺は先輩を守りたい。


人知れず性別で苦悩している、彼女を。



「はぁあ、複雑だな。お前の立ち位置って。俺、やっぱ空の立ち位置にはなりたくねぇや」



頭の後ろで腕を組むイチゴくんは、間を置いて、「自分も大事にしろよ」と突拍子も無いことを告げてくる。

なんでそんなことを言うのか分からない俺に対して、イチゴくんはなんとなく釘を刺したくなったのだと肩を竦める。


「自分を大切に出来ない奴が誰かを守ろうなんて、絶対に無理だと俺は思うんだ。
お前がどういう答えを出そうと、俺には相槌しか打てないと思うし、空が出した答えならそれで良いと思う。

ただ自分も大事にしろよ。空、どっかで自己犠牲を起こしそうで怖い」


「俺は自分ラブだよ。すぐ物事に対して逃げる傾向がある」


「なんで俺がそう思うか自分でも分からない。ただ直感しちまうんだ。空って時々やべぇんじゃね? って。なんでだろうな。
お前とは昔隣人さんで、よく遊んでいたからかもしれない。憶えてねぇけど。

でも、お前とはすぐにでも気が合った。
だから分かるんだ。時々、空やべぇってさ」


人を助ける自己犠牲もあるなら、泣かせる自己犠牲もある。それを忘れんなよ。

所詮、自己犠牲は自分のエゴなんだから。
 

イチゴくんの手厳しい忠告に俺は力なく一笑する。
胸に刻んでおくよ、その言葉。
  


「豊福。お前のメアドも教えてや」
 
 

ようやく向こうの鬼ごっこに一区切りついたのか、トロくんが俺に声を掛けてきた。

「うん。いいよ」俺は御堂家から借りているスマホを取り出し、彼に歩む。



「忘れるなよ空。自己犠牲は自分のエゴなんだ。―――…やべぇって思ったら俺、止めるからな」



目を細めて俺の背を見つめるイチゴくんに、俺は気付くことができなかった。


⇒07