前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



俺も後でトロくんとメアドを交換しよう。

そう思ってブレザーのポケットから携帯を取り出す。


一つは従来の携帯、もう一つは新型のスマホだ。

どっちに彼のメアドを入れるべきだろう?

イチゴくんを筆頭に友達の大半は従来の携帯、つまり鈴理先輩から借りた携帯にアドレスを入れている。


さと子ちゃんや御堂先輩の連絡先は御堂家から借りたスマホに入れているんだけど。


……いい加減、従来の携帯は返すべきだよな。

鈴理先輩に持っとけって言われているから、未だに借りているけど、そろそろ返すべきだと思う。

思い出の品があると、どーも自分の女々しさを噛み締めてしまうから。


吐息をついて従来の携帯をポケットに仕舞う。

「恋煩いか?」

揶揄する声が右隣から飛んできた。

そっちを流し目にするとメアド交換を終えたイチゴくんが、笑声混じりに尋ねてくる。


俺の心情を見抜いてくる元隣人さんに俺は肩を竦めて誤魔化す。あまり触れて欲しくない話題だった。


けど相手は容赦がない。

「簡単に元カノを忘れられないほど」

相手のことが好きだったんだな、静かに視線を合わせてきた。

元カノの話題なんて一言も出していないのに、イチゴくんは鋭いな。


ダンマリになっている俺に配慮すら見せないイチゴくんは、「贅沢な悩みを抱えてさ」羨ましい限りだと茶化してきた。
 

「元カノと婚約者。どっちが好きかで悩んじまってさ」

「終わった恋を女々しく思い返しているだけだって。俺は究極のオツオトコだ。振り返ることすら、本当は許されない。分かっているのに」


「お前の中じゃ区切りがついた筈なのに、元カノが行動を起こしている。だから戸惑ってるんだろう?
なんっつーか、ようやく相手のことを忘れられそうだった時に、向こうが恋心を思い出させるようなことをして動揺している、みたいな? 

いいよなぁ、そういうラブロマンス。俺も経験してみたい」
 

おどけるイチゴくんに俺は力なく笑う。

ぶっちゃけ、そんなに良いもんでもないよ。俺の立ち位置は必ず、どちらかを傷付けることになるんだから。


……なんだよ、今日観た舞台か?


片方は幸せに、片方は不幸せになる。


嗚呼、安い悲劇ナリ。