前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



御堂先輩が真剣に見つめてくるから、俺も彼女を見つめ返す。


そのガラス玉のような瞳の先に見える彼女の我が儘を察してしまった俺は、静かに頬を崩して目元を和らげた。


彼女の背に腕を回して俺から抱擁する。


「王子はホント甘えたっすね」

しょーがないからもう少し、此処らへんをぶらついておくと返事する。


もしこっちに来れそうならメールして欲しい。

俺が帰る時はメールするから、そう告げるとやっと彼女の表情が崩れた。


「今日は片付けで終わりなんだ。打ち上げも後日あるから心配は無い」
 

少しだけ待っててくれ。
どうしても君と過ごしたい。

「一緒に出店を回ろう」

惜しみない我が儘を俺に伝えた王子は、瞼にキスを落とすとスカートを翻した。

人工的に作られた金髪を風に靡かせて部に戻る彼女は、「彼は僕の婚約者だ」手や口を出すことも、傷付けることも許さない。

何かあれば必ず報復するとその場で宣言する。
ファンがいるのにも関わらず、だ。

これまた大袈裟な宣言をしてくれたなぁって思ったけど、彼女は俺が鈴理先輩の親衛隊と揉め事を起こしていることを知っている。
 

ゆえに過度とも言える発言をしてくれたんだろう。

おかげさまで俺はファンから殺されることもなく、悠々と出店をうろつくことが出来た(勿論、好奇心や殺意は感じたけどそれだけだった)。


あ、いや。


「そこの貴方。確か財閥会合の時にキスされていた方よねっ……、玲さまの唇は私のものだったのにぃいい!」

「お待ちなさい。貴方様はどこの財閥の方なの? 男嫌いの玲さまを誑かした魔性の男だということは分かっていますわ!」

「泥棒猫とはあんたみたいな女を指すのよ! どこの女っ、ねえ!」


……と、まあまあ、少々障害もあったり、ね。

この学院の生徒の一部は財閥グループの令嬢様のようで、出店を見て回っている俺達(というか俺)の前に立ちふさがってきた。

御堂先輩が釘を刺してもあららのあれれ、言いたい奴は言ってくるらしい。
 

とりあえず言いたい。
俺は男だと。

ついでにだあれが魔性の男だこのコンチクショウ!

怒りますよ?
庶民出の俺も怒りますよ! 
 
立ちふさがってくる各財閥の御堂玲ファンに俺は溜息をつきたくなった。


「お前も大変だな」


あんな馬鹿がいて、イチゴくんは心底同情。

トロくんが「やっば」婚約も財閥もガチ話やった。花畑にどんなことされるんやろ? と恐れおののき、

「失礼な方々ですね!」

空さまは立派な婚約者だというのに!
さと子ちゃんが鼻息を荒くした。


こういう場合は無視が一番だと思われる。

皆にごめん、早く行こう、と切り出し、ファンの障害を乗り越える。


キィキィ喚くお嬢様方は「貴方!」あまりいい気になっていると、後でほえ面かきますわよ! なんぞと怒鳴ってきた。

そりゃどうもである。


ただし。


「無理やりにでも玲さまと引き離してやりますから!」


という単語には頂けない。
 

俺はいいとしても、そういう行為が御堂家に迷惑を被るのは一目瞭然。


「それはつまり」御堂家の方に喧嘩を売るということですね? ファンに振り返り、丁重に言葉を返した。

 
「此方もお遊びで婚約しているわけじゃないんですよ。お嬢さん方。あなた方が癪を感じることには同情に値します。
が、俺も御堂先輩も将来を背負って婚約している身の上でして……、彼女に迷惑を掛けるつもりなら気が済むまで俺がお話し相手になりますが?」
 

露骨に威嚇すると早々お嬢様方の戦意が喪失。トンズラしてしまった。


あり? そんなに怖かったかな?


イチゴくんに尋ねると、「すっげぇ形相だったぞ」どんだけ御堂が大事なのだと苦笑された。


思った以上に殺気立っていたようだ。

あれま、ヘタレも凄めば女子を脅かせることができるようだ。



こんな騒動はあったけれど些細なことだ。

今は連れ達と一緒に学校探索をしようとぶらついている。


舞台女優を目指すさと子ちゃんは通信制高校に通っているがゆえに、こうした学校らしき学校の敷地に入るのは久しいと言った。


すべてが懐かしくも目新しく見えるらしく、制服を身に纏っている女子生徒を見ると声を上げている。

夢のために全日制高校に通うことを諦めたさと子ちゃんにとって、ちょっぴり普通の学生生活が恋しく思えるのかもしれない。

セーラー服に「いいなぁ」と本音を漏らしている。


するとなにやらトロくんが思うことがあったのか、「今度うちの学校で体育祭があるんや」それを見に来たらええよ、と一笑。

間の抜けた声を出すさと子ちゃんに、トロくんは語り部となった。


「うちの学校、体育祭はすんごい盛り上がるらしいんや。応援演舞の凄さは地元じゃ有名になるほどなんやで」

「体育祭ですか。面白そうですね」

「せやろ! 出れへんのはしゃーない。せやけど雰囲気は味わえるで。折角やし見に来たらええよ。学校に入れるってことそうはないやろうしな」