「豊福がいるなんてまったく分からなかった」
ご機嫌な彼女は今日はバイトかと思った、とニコニコしている。
「元々お休みを頂いていたっす」
それより酷いっすよ、どうにかセクハラの手を逃れた俺は、舞台に呼んで欲しかったと抗議。
蘭子さんに話を聞き、慌てて飛んできたと微苦笑を零した。
配慮をしてくれたのは嬉しいけど、こういうイベントには是非とも呼んで欲しい。
先輩の舞台となればバイトだって休む。
そう意見すると、「僕の子猫ちゃんは口説きが上手いな」とプリンセス。
子猫…、だからその表現はやめてください。
俺は喜びません。寧ろ悲しみます。
「舞台、お疲れ様でした。俺、貴方の舞台姿を観に軽い気持ち出来たんですけど、凄く感動しちゃいました。ふふっ、王女姿も様になってましたよ」
「練習ではとても苦労したんだ。女性らしく振舞えないし、口調はガサツになるし、投げようかと思った」
ぶーっと脹れる御堂先輩に俺は笑った。
「貴方はそんな人じゃないっす。嫌な役でも責任持ってこなす人っすから。大人の女性でしたね、先輩。とてもお淑やかでした」
「あまり嬉しくないぞ豊福。それって普段の僕は淑やかじゃないってことだろ?」
「普段はイケた女性っすよ。なんたって俺の王子っすから」
髪をぐしゃぐしゃっとしたかったけど相手がカツラをかぶっているため、断念。
その代わりにカツラである金髪を一束手に取って相手を見つめた。
「でしょ?」同意を求めると、御堂先輩がはにかんだ。
「そう言ってくれる豊福が好きだな」
やっぱり君は僕の子猫ちゃんだと褒めてくれた。
せめて姫って言って下さいよ。
まだそっちの方が免疫あるっす。
「さと子も一緒なんだな」
彼女が背後に目を向けた。
俺は首肯する。
「演劇が好きだって言ってましたから」
そう告げると御堂先輩は後で礼を言わないとな、と目尻を和らげた。
「ただなんだ。さと子に彼氏がいたのは意外だったな。てっきり博紀のことが好きなんだと思っていたよ」
「え? あ、あぁああ……、トロくんは彼氏さんじゃないっす。どちらかと言えばさと子ちゃんに片思いというか」
後ろで「さと子ちゃーん!」向こう二人のようにラブラブをしようや! とトロくんが猛アタック。
「イーヤーでーす!」身の危険を感じたさと子ちゃんはすかさずイチゴくんガードをして、トロくんのアタックから逃れている。
イチゴくんは二人の鬼ごっこなんてお構いなしに、「なあ所沢のトロ」俺の言うこときけよ、と物申していた。
ははっ、仲の良い三人だこと。
あれでも初対面なんだけどな、俺達。



