前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




おっとっと?!


二、三歩前に出た俺は振り返ってイチゴくんに何してくれるの、と口元を痙攣。

次いで一抹の勇気を持って前方を見た。


嗚呼、前方にいる集団が誰だこいつって見つめてくるんだけど! 視線が痛いんだけど! イチゴくんっ、この白けた空気っ、どうしてくれるの?! 


ドッと冷汗を流していると、「豊福?」御堂先輩が名を呼んできた。

信じられないものでも見るかのようにこっちを凝視してきたから、俺はその場で直立。

誤魔化し笑いを浮かべながら、イチゴくんの真似をしてみた。


「ちわっす。いつもお世話になっている豊福です。舞台、観に来ちゃいました」
 

女子群のあいつ誰だよオーラがパねぇ。
 
身の程知らずもいいところね、貴方。彼女の前にひれ伏しなさいオーラがパねぇ!


父さん母さん、息子は女子に慄いています! 女って怖ぇんですね!
 

視線を振り払いつつ、ぎこちなく手を振ると御堂先輩の表情が変わった。
 
見る見る笑顔を作る彼女は「豊福じゃないか!」こんなサプライズがあってのいいかと声をあげ、ドレスをもろともせず此方に駆けて来た。

なんだかとてつもなくヤな予感がしたから自然と逃げ腰になってしまうんだけど、お構いなしにプリンセスは人に抱きつき、その体を持ち上げてその場でぐるりと一周。


「うわっちっ!」


先輩にしがみついてしまう俺を今度は横抱きにして、そのままChu!


や、や、やりやがったよこの人。
 
人前で、しかも取り巻きの前で堂々とキスとか(いや鈴理先輩の彼氏の時は何度もされていたんだけどさ)。

額ならまだしも、口にするとか、ちょ、ない。ありえない。


嬉しくないかって聞かれたら、それは別問題でありまして……、いやでもでもでも、TPOは大事だろ?!


取り巻き女子達が悲痛な声を上げたのは言うまでもない。嫉視は勿論である。


特に先程抱いてと発言していた女子達から禍々しいオーラがっ! こ、殺されるかも。
 
不安を余所に擦り寄ってくる御堂先輩はすっかり甘えたモードだ。

どうにか地面に下ろしてもらえたけど、俺は未だに彼女の腕の中。


「来てくれたんだな!」


僕は凄く嬉しい、と言って両耳にキスしてくる。

きっと今ので殺意のランクが上がったに違いない。ううっ、俺の明日はあるのだろうか。些か不安になってきた。
 
「せ、先輩! こういうことは皆のいないところでっ、ぎゃ! どっこ触ってるんっすか!」

「来てくれて僕はとても嬉しい!」

ぐりぐりと額を肩口に押し付けてくる。
おててはこの野郎のドチクショウ、セクハラ中である。


「腹をさすらないで下さい! だからってじかに背中を触るのも駄目っす!」

「どうして? 僕達は婚約者なんだ。それくらいのスキンシップは許されるだろ?」


だからTPOを考えなさいとゆーとるんっすよ!

逆セクハラ攻防戦を勃発させている中、「なんやあれ」めっちゃラブラブやんか。しかも婚約ゆーっとった。ホンマやったんや。トロくんは絶句。

ニンマリニタニタな笑みを浮かべているイチゴくんは彼の肩に手を置き、「勝負」忘れてないよな? とクエッション。


トロくんが冷汗を流しながら何の話やったっけ? と誤魔化していたのは余談にしておく。