顔面硬直させる俺がぎこちなくイチゴくんに視線を投げると、「婚約者だろ?」ここはがつーんと男らしく行って来いよ! と背中を叩いてくる。
ンなこと言ったって女子を敵に回したくないんだけど、俺!
女子の嫉視は男子の嫉視より恐ろしいんだって!
キャーッ、こわーい!
俺、女子を敵に回したくなーい!
「そうですよ空さま。お嬢様は空さまが来ていることを知らないんですよ?」
きっと声を掛けたら喜んでくれるに違いない! さと子ちゃんが後押し。
それでも動けない俺に「なんややっぱ嘘か?」トロくんが勝利の笑みを浮かべた。もし婚約していることが本当なら、惜しみなく婚約者のところに行くだろうに。
トロくんの発言によってイチゴくんが焚きついた。
「俺は嘘なんか言ってないからな」
ゴォオッと闘争心をむき出しにするイチゴくんは、俺に視線を投げて早く行って来いと指示してくる。
そ、そんなこと言われても。
パンッ、乾いた音が聞こえてきたのはこの直後だ。
何の音かと視線を演劇部の方に流せば、御堂先輩が主人公の男貴族にそっぽ向いていた。どうやら彼の手を叩いたらしい。
「気安く僕に障るな。男のクセに」
ぶう垂れている彼女が彼に何をされたのか分からないけど、とにかく御堂先輩は不機嫌になっていた。
軽く手を振っている主人公さんは「可愛げがないね」もう少し女性らしくなれば可愛いのに、と毒言。
御堂先輩は舌を出して対抗。
君とは二度と舞台をやりたくないとまで言っていた。
「普段は“男”であろうとする君を“女”として褒めただけなのに、ね」
「厚かましい台詞はご遠慮願おうか? 君のような男は特に嫌いなんだ」
あちゃー、男嫌いが全面的に出ているな、ありゃ。
微妙に不穏な空気が演劇部に流れ始めた。取り巻きの女の子達もなんだかざわついている。
「どうかしたのでしょうか?」
傍観していたさと子ちゃんがそわそわと向こう側を見つめた。
「喧嘩かいな?」
野次馬魂をいかんなく見せているトロくんに対し、イチゴくんはというと。
「みぃーどぉーおー!」
空気を読まず、大声で彼女の名を呼んだ。呼びやがった。不穏を蹴散らすように大声で呼びやがりましたよ。
そりゃもう大音声で御堂先輩を呼ぶもんだから、周囲は俺達に大注目ですよ。
数十人の眼がこっちを向いたんですよ!
皆様、この恐怖、分かります?!
「ちょっ」何しているのだと青褪める俺を余所に、「ちわっす」先日貴方に失礼なことをしたイチゴです、とキャツは満面の笑顔できらっとポーズカッコウィンクつきカッコ閉じる。
「貴方の舞台を観ましたよ、こいつと一緒に!」
そう言うや俺の背中を力いっぱい押した。



