前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―

 

顔面硬直させる俺がぎこちなくイチゴくんに視線を投げると、「婚約者だろ?」ここはがつーんと男らしく行って来いよ! と背中を叩いてくる。

ンなこと言ったって女子を敵に回したくないんだけど、俺!


女子の嫉視は男子の嫉視より恐ろしいんだって!


キャーッ、こわーい!

俺、女子を敵に回したくなーい!


「そうですよ空さま。お嬢様は空さまが来ていることを知らないんですよ?」

きっと声を掛けたら喜んでくれるに違いない! さと子ちゃんが後押し。


それでも動けない俺に「なんややっぱ嘘か?」トロくんが勝利の笑みを浮かべた。もし婚約していることが本当なら、惜しみなく婚約者のところに行くだろうに。

トロくんの発言によってイチゴくんが焚きついた。

「俺は嘘なんか言ってないからな」

ゴォオッと闘争心をむき出しにするイチゴくんは、俺に視線を投げて早く行って来いと指示してくる。


そ、そんなこと言われても。


パンッ、乾いた音が聞こえてきたのはこの直後だ。

何の音かと視線を演劇部の方に流せば、御堂先輩が主人公の男貴族にそっぽ向いていた。どうやら彼の手を叩いたらしい。

「気安く僕に障るな。男のクセに」

ぶう垂れている彼女が彼に何をされたのか分からないけど、とにかく御堂先輩は不機嫌になっていた。

軽く手を振っている主人公さんは「可愛げがないね」もう少し女性らしくなれば可愛いのに、と毒言。

御堂先輩は舌を出して対抗。

君とは二度と舞台をやりたくないとまで言っていた。


「普段は“男”であろうとする君を“女”として褒めただけなのに、ね」

「厚かましい台詞はご遠慮願おうか? 君のような男は特に嫌いなんだ」
 

あちゃー、男嫌いが全面的に出ているな、ありゃ。

微妙に不穏な空気が演劇部に流れ始めた。取り巻きの女の子達もなんだかざわついている。

「どうかしたのでしょうか?」

傍観していたさと子ちゃんがそわそわと向こう側を見つめた。

「喧嘩かいな?」

野次馬魂をいかんなく見せているトロくんに対し、イチゴくんはというと。



「みぃーどぉーおー!」



空気を読まず、大声で彼女の名を呼んだ。呼びやがった。不穏を蹴散らすように大声で呼びやがりましたよ。


そりゃもう大音声で御堂先輩を呼ぶもんだから、周囲は俺達に大注目ですよ。

数十人の眼がこっちを向いたんですよ!

皆様、この恐怖、分かります?!


「ちょっ」何しているのだと青褪める俺を余所に、「ちわっす」先日貴方に失礼なことをしたイチゴです、とキャツは満面の笑顔できらっとポーズカッコウィンクつきカッコ閉じる。


「貴方の舞台を観ましたよ、こいつと一緒に!」


そう言うや俺の背中を力いっぱい押した。