「今日だって蘭子さんに頼まれましたし、七瀬さんにも……、私、頑張ります! 七瀬さんに言われたら頑張るしかっ」
ポッポッと赤面して、両手で頬を包むさと子ちゃんの可愛らしいやる気に俺は誤魔化し笑いを浮かべた。そのやる気が空回りしないと良いけど。
俺達のやり取りを見ていたトロくんが、「ホンマに財閥と婚約しているんか」と独り言を呟いた。
途端にイチゴくんがにやっと口角を持ち上げ、わざとらしく咳払い。
ハッと我に返ったトロくんは気丈に腕を組んで、証拠が不十分だと頑なに事実を認めようとしていなかった。
勝負の決着は時間の問題だろうな。
向こう二人にも愛想笑いを浮かべていると、館内にアナウンスが流れた。
公演時間と電灯が消えるアナウンスが前方のスピーカーから流れる。
それによってざわついていた館内は小波のように会話の声のボリュームが小さくなり、観客席は始まりを今か今かと待ちわびている。
下りている垂れ幕を見て、さと子ちゃんが「どん帳の代わりを果たしているんですね」と興味津々に舞台側を観察していた。
どん帳ってのは劇場の舞台と観客席とを仕切る垂れ幕のことで劇場用語なんだって。
さすが劇団に入っているだけのことはある。
垂れ幕の微かな隙間から、生徒達の上履きが見えた。
揺れている垂れ幕が静止すると、再びアナウンスが流れる。
それは舞台の始まりの合図だった。
アナウンスが途切れて開かれる幕の向こうに、スポットライトが当てられる。
幕の向こうには中世ヨーロッパを思わせるレンガ造りの建物。優美な湖畔。秋を思わせる色づいた木々が佇んでいる。
勿論これはハリボテだけど作りは凝っていた。
一体どんな話なのか。
それこそ御堂先輩はいつ、何処で出てくるのか、とても楽しみに舞台を見つめる。
最初に出てきたのは主役の貴族長男だった。
端整な顔をした男貴族が今の国の政治や情勢に不満を抱き、日々を過ごすという日常の一こま。
退屈な日常にも飽き飽きしていた主人公は、何か自分の人生を変えてくれるような転機は訪れてくれないかと望んでいる。
場面は変わり、酒場で主人公は国の不景気に不満を持つ平民達と意見の食い違いで乱闘を起こす。
若干腐りかけている主人公がまざまざと舞台の中に納められていた。
両親はそんな主人公に手を焼き、頭を悩ませる日々。



