前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


 
さと子ちゃんの攻撃を諸共せず、所沢くんが距離を詰めてきたもんだから、彼女は声なき悲鳴を上げて逃げ出した。


だからなんで逃げるのだと所沢くんが後を追い駆ける。

嫌がられている現実なんぞ無視しているのか、気付いていない鈍感さんなのか、はたまた不屈の精神を持っているのか、本気でBBBダッシュしているさと子ちゃんの後を追っている。
 

「助けて七瀬さーん」半泣きで逃げるさと子ちゃんに対し、「名前教えてーや!」ハートを散らして後を追う所沢くん。

体育館前周辺で愛と涙の鬼ごっこが繰り広げられている。


嗚呼、なんでだろう、めっちゃ親近感が湧く。

ああいう追いかけっこを俺もしていたからだろうか? 
 


「……イチゴくん。所沢くんっていつもああなの?」



二人の鬼ごっこを遠目で眺めながら、俺は右隣に声を掛けた。

頭の後ろで腕を組んでいるイチゴくんは「所沢って馬鹿で惚れやすいんだ」と、納得のいく返事をくれた。

なるほど、女の子に惚れやすいんだ。

馬鹿って単語がアクセントとして効いているよな。


馬鹿で惚れやすい、か。

だよなぁ、じゃないとこんな状況なんて生み出さないよ。
 

「ねえ、イチゴくん。所沢くんをどうにかしてあげてくんないかな? じゃないとさと子ちゃんが本気で泣くかも」

「所沢の奴、惚れるのはいいけど、あいつ、ちゃーんと俺の話は信じたのかよ。俺は嘘つきじゃないぞ」


「所沢くんの暴走を止められるのはイチゴくんだけだと思うんだけど」

「事が真実だって分からせたら、あいつにクラスメートへの誤解を解かせよう。ついでに驕ってもらおう。ちょっとやそっとじゃ許してやんねぇ」



「……聞いてる?」

「そんくらいして当然だよな? 空。だって俺はいつだって正直者だしさ」



人の話、ちっとも聞いちゃないし。

かみ合わない会話に溜息をつき、追いかけごっこにも深い溜息をつき、俺はこめかみに右手を添えた。

どうして行く先々で目立っちゃうかな、俺達。