祈るような思いで神様に懇願していると、「そのうち来るさ」いや、分かるさの間違いかもな、ニヒル返しの笑みを浮かべて、ついでに視線を俺に流して鈴理先輩は歩き出す。
つまらなさそうに鼻を鳴らす御堂先輩は肩を竦めて彼女の後について行き始めた。
ホッと胸を撫で下ろして俺も足を動かす。
まったくハラハラするよなぁ…、最初から関係をばらしておけばこんなにもハラハラすることなかったんだろうけど、それじゃあ公の場で俺等の関係を揶揄されかねないし。
まさかこんな平凡庶民が先輩の彼氏だなんて…簡単に言えないしなぁ。
小さな溜息をついて俺はもう一度、ホテル内を見渡す。
こんな豪華なホテルに鈴理先輩は行き慣れてるんだろうなぁ。俺なんて初めても初めてだから…、なんだか生きている世界が違うんだって改めて思い知らされたかんじ。
刹那、ドンッと前の人とぶつかって、俺はつんのめる。
余所見をしたせいだろう。
「おっと」
前の人は俺の体を受け止めてくれた。
面目ないっすっ、余所見をしていたせい…っ、今ぶつかったのはっ、ゲッ、御堂先輩!
ゲゲゲッ、やっちまったっ、男嫌いの彼女にぶつかるとか、しかも体を受けてもらうとか最悪も最悪だろっ!
慌てて上体を起こす俺は、「す…、すんませんっ!」両手を合わせて謝る。
「お、お怪我はないっすか? 俺、余所見していたもんだから…」
「君は男のクセに何をやっているんだい?」
グサッ、嗚呼、胸に25のダメージが。
で…ですよねぇ、男のクセに女に受け止められるとかダサイっすよねぇ。
自覚はあるんっすよ、自覚は。
本当にごめんなさいっす。
「しかも何故だろうか、君は受け身に慣れているような気が」
グサグサッ、195のダメージ!
う…、嘘だっ…、マジでっ。
俺、そんなに受け身に慣れて…、いやそりゃあ思い返せば鈴理先輩に対して受け身を取らざるを得ない態度ばっかり取っていたものだから、ある程度は慣れているかもしれないっすけど…、でも、でもぉおお!



