□ ■ □


―――…ゆっさゆさ。ゆっさゆさ。ゆっさゆさ。
 

誰かに体を揺すられている。
激しい揺れではないけれど、決して優しい揺れとも言えない、この振動。

その手の動きで意識を浮上させた俺は、寝返りを打って揺れから逃れる。

微かに起きてくれと言われたから、もう少しだけと言っておやすみなさい。


「お食事ですよ」


次第次第にはっきり聞こえてくる台詞には、「御堂先輩には先に食べるよう言って下さいっす」と返事。


あの人、俺といつも一緒に食べると心がけているからな。

まだ起きれそうにないから是非、今食は先に食事を取ってもらいたい。


と、起こしている手が腹にのった。

途端に本能的危機を感じた俺は寝ぼけながらも瞼を持ち上げ、相手に一言。


「センパイ。いつも言ってますけど、人の寝込みを襲っちゃ駄目っすよ」


「え」相手が物の見事に固まった。

目をしばしばさせる俺も相手の硬直している姿にようやく頭が覚醒。

驚きかえっている母さんと視線を交わしている現状に、俺はサーッと青褪めた。


嗚呼、やっちまったんだぜ。


母さん相手にナニ言ってんの俺っ……、ウギャアアアアア! 死にたい! 母さん相手に寝込み襲っちゃ駄目よ発言したとかっ。


そうだよ、今日は土曜じゃんか!

俺、バイトして実家に帰って来たんだよ!

やっちゃったよおい。

できることなら今の出来事はリセットにしたい。


それが駄目なら裏山の土に埋まってそのまま永遠の眠りに就きたい!


頭を抱えて身もだえている俺に対し、「空さん。寝込みって」母さんが顔面蒼白で両肩を掴んできた。

んでもってガクガク揺すってくる。

もしかしてお金持ちさんのところで苛められているんですか! 虐げられているんですか! そうなんですか! エンドレス。


母さんが暴走し始めた。


そんなことないとかぶりを横に振る俺は、「ご飯だっけ?」洗顔してすぐ夕飯の準備を手伝うからと布団から抜け出した。