ああ、気が気ではないと裕作。

かなりの親ばかっぷりを発揮している。
 

あっ気取られる英也だったが、すぐに表情を戻し、「ご熱心ですね」と愛想笑いを浮かべた。


「苦労ばかり掛けていますから」


もう少し、収入が良ければ苦労も負わせずに済んだのでしょうけれど。

安月給に嘆く裕作はこれを自虐ネタとして振舞ってきたが、英也は苦笑いしか浮かべられない。


代わりに大丈夫ですよ、と励ましを送った。

貴方のご子息はとてもしっかりしてらっしゃいますから、建前とも偽善とも取れる言葉を相手に伝えると、「それは分かっているんです」と裕作。


「けれどあの子は心配掛けまいと、負の面は何も言わないんです。プレッシャーも大きいでしょうに。

もう少し、我が儘になって欲しい。
そう思えど、あの子は我が儘になれない。血縁の有無がそうさせているのか、と時々考えてしまいます。親がそう思ってどうするんだって話なのですが、時々妙に血縁について考える自分がいるものです。

ああ、すみません。粗末な話を聞かせましたね」


「いえ……、お互いに子育てには苦労しているようですね」


愛想笑いから一変し、素の微笑を浮かべ、力なく肩を竦める。


「おや、竹之内さんのところもご苦労が? 鈴理さんはとても礼儀正しい淑やかな女性でしたよ。あの上品さは教育の賜物でしょうね」
 

礼儀正しい(高飛車口調ですが)。

淑やか(裸足で駆け回るじゃじゃ馬だったり)。

上品(……、だったら苦労していない)。


どれも三女に欠けているスキルである(鈴理「もうあたしは我慢しません。素のあたしでいくのです。ということでスリッパはポーイなのです」)。


英也は最近の三女の傍若無人さに溜息ばかりが出る。

裕作の言うような女性だったらどれだけ楽だっただろうか。

四姉妹の中で誰よりも個性的な三女、その三女が婚約破棄を申し出ている。

頭痛と眩暈の毎日だ。
 

疲労を含んだ溜息をつく英也に、「その様子ではとても大変なようですね」裕作が同情を込めて笑った。


「確かお子様は四人でしたよね? 空から聞いていますよ。全員女の子だとか。父親としては辛いことも多々でしょう?」

「そうなのですよ。異性の子を持つと辛いものです。隣、宜しいでしょうか?」