その頃、二階堂家に泊まっていた鈴理は夜更けまで企業分析をしていたのだが、ふと胸騒ぎを感じて弾かれたように顔を上げた。
ヤーな胸騒ぎに眉根を寄せ、向かい側で企業分析をしている婚約者に視線を送る。
次いで、書類を持っていない左手に視線を向けると腕をがぶり。
「アイッデー!」
意識が財務諸表に向かっていたため、鈴理に対して気そぞろになっていた大雅は腕を噛まれ悲鳴を上げた。
「てめっ! 何しやがるんだ!」
喝破と一緒にゴンッ、痛烈な拳骨を頂戴してしまい、鈴理はぶうっと脹れる。
「女に手をあげて良いのか? 空だったら、絶対に手はあげんぞ! 男の風上にも置けん男だ」
「お・ま・え・なッ……、こういう時だけ女ぶってるんじゃねえぞ。このオンナオトコ! 人が一生懸命分析をしているっつーのに!」
「あたしだってそれは同じだ。しかし、しかしだ人間、根詰めても良いことなどないのだぞ! あたしは息抜きがしたい。
ついでに攻めたい恥らわせたい赤面させたい押し倒したい喘がせたい焦らしたい求めさせたいエンドレスなのだよ! 分かるか、大雅! あたしのつっらーい気持ち!」
「テメェのお守りをしなきゃなんねぇ俺の方がつれぇっつーの!
はぁあ、ったく……何処まで見たか分からなくなってッ、アッブネ!」
再び婚約者の腕を噛もうと試みるが失敗に終わってしまう。
ケチくさいと恨めしく相手を見据える。
「噛ませるか!」
痛い思いなんざごめんっ、俺様に怪我させたら承知しねぇぞ!
ギャンギャン吠えられてしまい、鈴理は唇を尖らせた。
テーブルに伏して噛みたいし舐めたいしキスしたい、ぐだーっと消沈する。
頭上から溜息が聞こえてきた。
「あと一ヵ月半だぜ?」
勝負に負けてもいいのかと大雅に問われる。
勿論否に決まっているが、攻め不足イコール、それは空腹も同じなのだ。
餓死しそうだと鈴理は親指の爪を噛む。
「玲の傍には常に空がいるのだぞ。仮にあいつが空腹になっても、いつだって空で補える。
しかしだ。あたしには大雅しかいない! 大雅は攻めさせてくれないではないか! それが余計空腹を誘うっ…何故噛ませてくれない?!」
「ほねっこが必要か? 買ってやるぞ」
「あたしは犬か! 愛犬アレックスの好物だぞそれ!
……はぁあ、嫌な胸騒ぎはするし。多分空が攻められているのだろう。あたしの勘はかなりの確率で当たるしな」
ううっ、切ない。
これもそれもあれも父さま母さまのせいだ!
許婚がいるから空と別れろ、だなんてっ、あたし達の仲を裂くなんてっ、王道展開過ぎる!
いや確かに金持ち×貧乏なら必ず、テーマの一つとして身分が挙げられるが、まさか自分達に被るなんて!



