「結婚したら御堂空になるのか」
なんだか聞きなれない音である。
証明書を側らに置き、その紙の下に敷かれていた契約書に手を伸ばす。
「これだ」
婚約したその日に、父は豊福家から借金並びに連帯保証人が記載されている書類を受け取っていた。
書類を斜め読みする限り、五百万の借金。豊福家の署名。そして借金を作った張本人の署名が載っている。
「確か親類だったな」
豊福裕作の従兄弟に当たると言っていた。
彼は豊福裕作の兄夫婦に当たる子供だから、彼にとって血縁関係がないとは言い切れない人物である。
“濱 剛(はま つよし)”
この男が豊福家に借金を押し付けた。
署名されている名を睨み、玲は写メして情報をおさめようとスマホを構えたが脳裏に勉強している彼の姿が過ぎり、カメラモードを解除する。
手早くその書類と婚約証明書を二つ折りにすると、袂に入れて茶封筒を金庫に仕舞った。
何事もなかったかのように書斎部屋を出た玲は、月明かりを浴びている廊下を歩む。
一度自室に戻ってその契約書を机に仕舞うと彼のいる部屋に足を向けた。
(あの契約書だけで情報が足りるともは思えない。あのジジイに接近する必要性があるな)
性別で貶してこようが、蔑まれようが、罵声を浴びせられようが構わない。
純粋な関係を作るため。
自分の本気を彼に知ってもらうために、やらなければならないのだ。
未だ彼の心は“彼女”に囚われている。
本気で気持ちをぶつけられ、その想いに惹かれた彼なのだ。簡単に此方に心が傾くとは思えない。
「とても燃えるね」
手に入りにくいと分かれば分かるほど、どうしようもなく燃えてしまう。
感受性の強い女は特に恋に焦がれる生き物だと雑誌に載っていたが、それは本当らしい。
ガードの堅い彼を想い、一笑を零して玲は部屋の障子を開ける。



