重要書類等は書斎部屋の金庫に仕舞っていることを玲は知っている。
問題は金庫の番号だが父のガサツな性格を知っている玲は(ゆえに自分のガサツな性格は父譲り)、番号は多分、生年月日だろうと踏んでいた。
クレジットカードの暗証番号やパソコンのパスワードを設定する際、父は癖で生年月日にすることが多い。
母に注意されて変更したらしいが、父曰く、一番覚えやすいのだとか。
新聞の社説でも、男性は生年月日を暗証番号にする傾向が強いと記事で読んだことがある。
その記事を書いた編集者自身もそれで被害を受けたと書いてあった。
今は何時だろうか。
壁にかけられている掛け時計に視線を流した玲は、午前様過ぎかと目を細め抱擁している腕を強くした。
思考を回せば回すほど感情が昂ぶった。
そのためか掛け時計が一周、また一周しても眠気が訪れず、瞼を下ろしても感情は熱くなるばかり。
とうとう針が三周を過ぎた。
一刻一刻を肌で感じていると、腕の中のぬくもりが身じろいだ。
寝返りではなさそうだ。
目を開けようか迷ったが、「やばっ」その声を聞いてしまったものだから狸寝入りをしなければいけない使命感に駆られ、玲は目を閉じ続ける。
ぬくもりが音を立てないように腕から滑りぬける。
布団から消えたぬくもりは机に向かったらしい。
机側から眩しいほどの明かりを感じる。
欠伸を噛み締める声に、鞄の中をあさる音、ペンケースのチャック音から彼が勉強を始めるのだと察する。
今日くらいおとなしく寝ていればいいのに、寝落ちした罪悪感があるらしく、五時まですると独り言が聞こえた。
音を立てないよう寝返りを打って目を開ける。
机に着いて参考書を捲っている彼だが、まだ覚醒していないのか、「眠い」シンドイと弱音を吐いていた。
自分の前では決して吐かない弱音だ。
開いたままの本を机上に放置すると、彼は机に飾っている写真立てを手に持つ。
あの写真立ての中身を拝見させてもらったことがあるのだが、二種類の写真立ては各々写っている人物が違う。
玲は諸事情で生い立ちを知っていたし、彼からも実親と育ての親のことを聞いていた。
どちらも大切な両親なのだと語っていた彼にとって、あの写真立て達はお守りであり、精神的な支えなのだろう。
飽きることなく写真立てを眺めていた彼は、「御堂先輩は俺の守りたい人」だから頑張れるよ、と笑みを浮かべて定位置に戻した。
それは義務ではなく彼自身の純粋な気持ちなのだと分かってしまい、玲は顔を顰めた。彼は自分に襲って欲しいのだろうか。
殺し文句もいいところである。
顔がアツイ。



