前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



要領の悪さ、理解の遅さに出来が悪いのかと悩む姿も見受けられたが、人が一度に覚えられる知識なんて限られているのだ。

彼は天才ではない。
かといって馬鹿でもない。

ただの常人である。

無理なものは無理なのだと、自身も知っているだろうに。
 

(借金。これさえ無くなれば、豊福の負担は消える。ジジイの言いなりになる必要もなくなる。それだけじゃない。僕達は純粋に付き合える)

 
彼は五百万という多額の借金があるから御堂家に身を寄せている。
 
これは彼にとっても自分にとってもネックだ。

借金がある限り、彼は必要以上の我が儘も願いも口にしないだろう。


それに……、彼の気持ちを疑うわけではないが、時折思うのだ。

守りたいという気持ちは借金という負い目からきているのではないか、と。


分かっている。
彼がそういう気持ちで傍にいるわけではないことくらい。

それでも、そう思ってしまうのは自分達の関係が不純から成り立った婚約カップルだからだろう。

さと子と嫉妬の話をしたが、演劇部だけでなく、現在進行形で自分は嫉妬心を抱いている。

勿論それは恋愛に関して、だ。


(借金ができたからこそ付き合えるようにはなったが、やはり……、納得がいかない。僕自身の実力じゃないからだろうな)
 

純粋な気持ちをぶつけて彼をモノにした鈴理と、それすら叶わず彼をモノにした自分とじゃ明らかな差がある。
 
人は感情に順応する生き物だと玲は思っている。

優しく微笑みかければ、それだけ優しい微笑みを返され。
悲しみを振り撒けば、それだけの悲しみを与えられ。
痛みを与えられれば、今以上の痛みを返される。

ヒトはそういう生き物だと思っている。

本気でぶつかれた気持ちが強ければ強いほど、惹かれる気持ちも増すのではないだろうか?

その結果が今の空と鈴理の関係だ。
理不尽な理由で別れても尚、想い合っている節があるのだから。
 

(……だからといって、負けるつもりもないんだけどな)
 

寝返りを打って彼を抱き込む。
 
此方に寝返りを打って身を寄せてくる婚約者に微笑を零し、(借金さえどうにか)と心中で反芻した。

手っ取り早いのは豊福家を此処まで追い込んだ張本人を引きずり出すことだ。


踏み倒して行方を晦ましているらしいのだが……、情報が欲しいところだ。

学校生活や部活、習い事で時間が思うように取れないものの、彼のように雁字搦めになっているわけではない。


(情報を得るなら父の書斎部屋か。確かあそこに契約書が保管されていた筈だ)