前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



空の自室として割り当てられている部屋に入った玲は、既に用意されている敷布団に彼を寝かせ、そっと髪を撫ぜた。

無防備な寝顔を作っている婚約者に微笑ましい気持ちを抱く一方で、煮えたぎる感情が胸を締めていた。


自分の傍にいることで自由が許されていた彼が、自由すら失われつつある。

あのクソジジイのせいで。


「借金の肩代わりだけじゃ飽き足らず、僕の代わりに豊福にでも財閥を任せようって魂胆か? だから過度な教育をスケジュールに組み込んだのか?」

 
いや、あのジジイのことだ。

御堂家の血を引いていない人間に財閥を任せるわけがない。


財閥の糧になれるよう、使える人間に育て上げようと目論見があるのだろう。
 

しかし彼の一番の使命は自分を身ごもらせ、息子を産ませることにある。

今更彼に英才教育を施して何になる?

幾らなんでも彼の年齢では限界がある。

幼少から施してこそ伸びる才能もあるのだ。

四捨五入すると成人の年齢に達する彼に、過度な教育を施してもさほど利益にはならないだろう。


「ただ子を孕ませるだけなら」

今までどおりでも良かった筈なのに。

どうせ彼にも、自分にも、財閥を託すつもりはないのだから。
 


「……僕が男なら、君もこんな苦労を背負わなかったのかな」
 


けれど僕が女だったからこそ、君を好きになれた。それは紛れも無い事実。
 

微かに頬を崩すと玲はゆっくりとした動作で眠り人と唇を重ねた。

相手がお疲れのため触れるだけのキスに止めておくが、「うーん」キスするんじゃなかったな、もっと触りたくなった。

腕を組んで玲は大後悔する。

布団に寝転がって幸せそうに眠っている婚約者を見つめ、見つめ、みつめ、眉根をつり上げる。


大体婚約者なのにキス止まりなんておかしくないか?

もー少し仲を深めても良いと思うのだが。


いや深めようとはしているのだ。深めようとは。
 

奇襲攻撃を幾度となく繰り返した。


折角同棲しているのだから、ある時は脱衣所にいる彼を狙ってみたり(空「ちょ。俺着替え中っす!」)

浴槽に浸かっている彼を狙ってみたり(空「ギャァアア! センパイィイ?!」)

自分が浴衣を着せようと突撃してみたり(空「自分で着ますからっ、先輩のエッチィイイイ!」)。


浴衣を肌蹴させたこともあったさ。

帯で拘束したこともあったさ。

後ろから抱きついてセクハラをしたこともあったさ。


言葉攻め? 十八番なんだぜ!


とにもかくにも紳士的に欲をぶつけようと思った。思ったわけだが。