「―――…空さま。冷えてきましたよ、そろそろお部屋に入りましょう」
湯冷めしてしまいますよ。
夜空を見つめていたさと子は、夜風の肌寒さを感じ取って御堂家の若旦那となるであろう人物に声を掛ける。
しかし返事が無い。
おや、どうしたことだろう。
さと子が相手の顔を覗き込むと、そこにはカップを持ったまま微睡んでいる空の姿が。
今さっきまで自分と会話していたというのに……、よほど疲れているのだろう。
起こすべきなのだろうけれど、夢路を歩いている面持ちがあまりにも安らかで声を掛ける気が失せてしまう。
落としそうなカップを取り、お盆に戻して微苦笑を零す。
「お疲れなんですね」
土日は不在でどうしているか分からないが、この家にいる間はいつも夜更けまで起きて勉強ばかり。
出逢った当初と比べると、持ち前の明るさがくすんでいる気がする。
友達として彼に何ができるか、そんなの高が知れているけれど、嗚呼、無理だけはして欲しくない。
タオルケットでも持ってこようか。
思考を回していると「さと子?」第三者の声が鼓膜を打つ。
そっと顔を上げると、風呂上りの玲が軽い足取りでこちらに歩んできた。
濡れた髪はあちらこちらに跳ね返っているが彼女は気にする素振りも見せず、自分達の下にやって来る。
何をしているのかと目で訴えてきたため、さと子は縁側で涼んでいたのだと告げた。
「空さまがどうしても此処で涼みたいと仰るので。そしたらお眠りになってしまいました。起こして差し上げるべきなのでしょうけれど」
「……いや、寝かせてやってくれ。昨日も四時半まで勉強をしていたみたいだから。起床するのは六時半、二時間程度しか眠れていないんだ。豊福は」
昨日というより今日と言った方が表現が適切かもしれない。
顔を顰める玲は婚約者の隣に腰掛ける。微かな振動が伝わったのか、彼の瞼が持ち上がったがすぐにまた閉じられた。
「お嬢様。小泉先生の一件はどうでしょうか? あの方の教育はとても過激でしたが」
「ああ。さと子のおかげでどうにか緩和できそうだ。替えるかどうかは分からないが、さと子が蘭子に一報を寄越してくれなかったら事は発覚しなかっただろう」



