どうやらこの口論は御堂先輩の勝利らしい。
自分から喧嘩を売ったのに、こうも容易く負けちまうなんて…、大雅先輩、ダサイっす。
それとも向こうの気が極端に強いせいかな。
「テメェに彼氏なんかできるか!」
こんな男勝りには恋すら無理だ、好きっていう奴すらいないね。ああいないね。
負け惜しみの捨て台詞を吐いて腕を組む大雅先輩に対し、
「彼氏なんかいるものか」
仏頂面を作る御堂先輩。
男なんて滅べばいいんだと舌を鳴らす彼女に、宇津木先輩はまあまあと仲裁に入った。
「そう言わず、玲さんにも春が訪れますわ。なにせ鈴理さんが恋をしたくらいなのですから。いつか、きっと玲さんの性格を受け入れてくれる男性が出てきますわ」
いやぁ、その前に男嫌いを直さないとどうしようもないと思うんだけど。俺は心中でツッコんだ。
「そーそー。超攻め攻めでリード権を持ちたがる鈴理を受け入れる、超受け身な男が出てくるくらいだしねぇ」
川島先輩…、ちらちらと俺を見ないで下さいっす。俺等の関係がばれるじゃないっすか!
唸りたくなる気持ちを必死に抑えながら、俺は車窓に視線を流して現実逃避。これ以上、会話を耳に入れていたら赤面しちまいそうだ。
「うひっ!」
瞬間、俺は頓狂な声音を上げた。
途端に視線が俺に集中したけど、「なんでもないっす」慌てて愛想笑いを振り撒き、しっかりと片手で荷物を持つ。
もう片方の手を腰に回し、おイタしているおててを捕獲。
さり気なく隣人さんに笑みを向けた。
「鈴理先輩。それは駄目っすよ、それは」
「なんの話か、あたしにはサッパリだが? 空」
こ、こ、この悪魔っ!
なにをいけしゃあしゃあとっ…、俺の腰、現在進行形で触ってるでしょっ! 馬鹿しないで下さいよっ、目の前に御堂先輩がいるっていうのにっ!
ははっと笑う俺に、にこっと笑い返す鈴理先輩。
鞄で隠してるものの、彼女の悪さする手は俺の手から逃れてお触りお触り。あああっ、もう、くすぐったいのなんのってっ、俺はやめろとゆーとるんっすよ!
ほっらぁあ訝しげに御堂先輩がこっちを見てるしっ!



