前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



どうやらこの口論は御堂先輩の勝利らしい。

自分から喧嘩を売ったのに、こうも容易く負けちまうなんて…、大雅先輩、ダサイっす。

それとも向こうの気が極端に強いせいかな。
 

「テメェに彼氏なんかできるか!」

こんな男勝りには恋すら無理だ、好きっていう奴すらいないね。ああいないね。

負け惜しみの捨て台詞を吐いて腕を組む大雅先輩に対し、


「彼氏なんかいるものか」


仏頂面を作る御堂先輩。

男なんて滅べばいいんだと舌を鳴らす彼女に、宇津木先輩はまあまあと仲裁に入った。
 

「そう言わず、玲さんにも春が訪れますわ。なにせ鈴理さんが恋をしたくらいなのですから。いつか、きっと玲さんの性格を受け入れてくれる男性が出てきますわ」


いやぁ、その前に男嫌いを直さないとどうしようもないと思うんだけど。俺は心中でツッコんだ。


「そーそー。超攻め攻めでリード権を持ちたがる鈴理を受け入れる、超受け身な男が出てくるくらいだしねぇ」


川島先輩…、ちらちらと俺を見ないで下さいっす。俺等の関係がばれるじゃないっすか!

唸りたくなる気持ちを必死に抑えながら、俺は車窓に視線を流して現実逃避。これ以上、会話を耳に入れていたら赤面しちまいそうだ。
 

「うひっ!」


瞬間、俺は頓狂な声音を上げた。

途端に視線が俺に集中したけど、「なんでもないっす」慌てて愛想笑いを振り撒き、しっかりと片手で荷物を持つ。

もう片方の手を腰に回し、おイタしているおててを捕獲。


さり気なく隣人さんに笑みを向けた。


「鈴理先輩。それは駄目っすよ、それは」

「なんの話か、あたしにはサッパリだが? 空」
 

こ、こ、この悪魔っ!

なにをいけしゃあしゃあとっ…、俺の腰、現在進行形で触ってるでしょっ! 馬鹿しないで下さいよっ、目の前に御堂先輩がいるっていうのにっ!

ははっと笑う俺に、にこっと笑い返す鈴理先輩。

鞄で隠してるものの、彼女の悪さする手は俺の手から逃れてお触りお触り。あああっ、もう、くすぐったいのなんのってっ、俺はやめろとゆーとるんっすよ!

ほっらぁあ訝しげに御堂先輩がこっちを見てるしっ!