前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


 
ズズッと冷えた緑茶で喉を潤し、俺はさと子ちゃんから夜空に視線を移す。


「あと一ヵ月半か。早いなぁ」


「え?」声を上げるさと子ちゃんに、「なんでもないよ」俺は誤魔化し笑いを浮かべた。
 
勉強に追われる毎日だけれど、密かに俺はカレンダーの日数を数えている。
 

残り一ヵ月半。

一ヵ月半で鈴理先輩と御堂先輩の勝負が決まる。

鈴理先輩は大雅先輩と破局すると宣言し、御堂先輩はそれができるかどうか見守ってやると断言している。

できなければ大雅先輩は可哀想な事に受け男にされ、抱かれるとか。

俺は俺で……、怖いから想像しないようにしよう。


早く三ヶ月経って欲しいような、経って欲しくないような、中途半端な気持ちが俺を複雑にさせる。


どうあっても借金を消せるわけが無い。
それは分かっている。

どうあってもあの二人が婚約を白紙に出来るわけが無い。
それも分かっている。

どうあっても鈴理先輩の負けは目に見えている。
分かりきっている。
 

なのに、簡単には割り切れない、この気持ち。


俺は乙女か!

いや乙男(オツオトコ)か……、女々しいねぇ俺も。

さっさと現実を受け入れたら良いのに。


モロッコに行って娘にでもなっちまうか?

ったくもう、女々しい自分に苛立ちを覚えるよ。



(今日は特に女々しいな。これも鈴理先輩のせいだよな。どうして俺の傍にいたんだろ、あの人)



俺達はどうあったって傍にいられないって分かっているくせに。

諦めの悪さはぴか一だよな。

ほんっと自分の思うとおりにならないと嫌がるあたし様だよ。


前みたいに高飛車口調に戻って、俺を困らせて、振り回して。これから先、彼女と先輩後輩関係でもその関係は続いていくんだろうか?


近未来すら俺には想像しかねた。


重たい瞼を懸命に持ち上げたまま、俺は夜空にぽっかり浮かぶ満月を見つめ続ける。


今日の満月は本当に綺麗だ。

ほんとうに、きれい―――…。