前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「今夜は満月のようですね。綺麗です」

 
夜空を仰いで話題を振ってくるさと子ちゃんの横顔は、出逢った当初よりも自信に満ち溢れている。

仕事に対して要領を覚えたんだろう。

彼女の失敗談はパッタリと途切れた。

もしかしたら俺が聞き逃しているだけかもしれないけれど、あの頃よりはずっとマシだ。


そう、テンパっていたあの頃よりは。


「空さま。頭痛の方は大丈夫ですか?」
 

二日に一回は襲ってくる偏頭痛事情を知っている彼女が、俺に憂慮を向けてきた。


「大丈夫だよ、今日は学校で寝たから。偏頭痛は寝不足が原因だろうね。俺、六時間睡眠は欲する体質だから」
 

原因が分かっている以上、あんまり薬は頼らない方がいいかもしれない。

軽く吐息をつくと、「今日はもうお休みになられてください」顔色が優れていないとさと子ちゃんに指摘されてしまう。

「ありがとう」

俺は彼女の心配を受け止めた。

けれどすぐに寝るわけにもいかない。
課題をしておかないと。

明日は中国語の勉強があるしな。

あ、豆知識だけど、これからの経済に中国や韓国の存在は無視できないんだって。

だから中国語や韓国語はできた方が良いらしい。
今の中国、経済発展が著しいしな。
 
その旨を伝えるとさと子ちゃんが眉を下げた。
 

「もう少し、お勉強時間を削ることはできないのですか? ご無理が過ぎていますよ」
 

分かっている。

自分のキャパシティーがオーバーヒートを起こしているってことくらい、分かっているんだ。

それでも努力を止めるわけにはいかない。どうしても。
 

「俺、庶民出身だからさ。どうしても他財閥の令息令嬢と差があるんだ。少しでも差を埋めないと、婚約者すら名乗れない。先輩の傍にいられないから」


「そうは言いましても……、空さま。とてもやつれました。お体を壊したら努力も水の泡となってしまいます。
なにより玲お嬢様がご心配していますよ。
周囲の眼や評価もありますでしょうけれど、彼女を御思いならどうか休まれて下さい」
 

これは召使ではなく、友達としての助言であり心配です。

さと子ちゃんの強気な言葉に俺は瞠目した。

次いで、頬を崩す。


本当にさと子ちゃんは強くなったな。

テンパっていたあの頃とは大違いだ。

「そんなに顔色が悪い?」俺の問い掛けに、「ええとても」即答するさと子ちゃんは今にも倒れてしまいそうだと誇大な表現を使う。

土日は寝ているんだけどな。12時間は当たり前のように床に就いているわけだし。