前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



結局、すべての勉強が終わる頃には夜十時を過ぎてしまった。

夕飯もろくすっぽう食べないままの勉強に俺はマジ泣きしそうになったけど(メシ抜き休息抜きの勉強とか酷くね?!)、なんとか泣かずに一日を乗り越えることができた。
 

マジもうロッテンマイヤーさん、鬼すぐる!

容赦なく指し棒で引っ叩いてくるんだぜ?!

まだ若いけど(でも三十路は過ぎていると思われる)執拗にビシバシと人を叩いて良いと思っているのか?!
 

おかげで俺の腕は赤い筋だらけだ。

彼女曰く、筋の数だけ未熟者らしい。
そうは言っても不慣れなことばっかりなんだからしょーがないでしょうが。


ううっ、微妙に痛いんだけど。

腫れたらどうするんだよもう。


熱を持っている赤筋に溜息をつき、俺は机上に散らばった教科書類を片付ける。

まだ背後にいるロッテンマイヤーさんは(本名:小泉 彩先生)、俺の出来の悪さに溜息をついていた。

「庶民出身だから仕方がないにしてもよ」

礼儀作法がまったくなっていない。
あまりにも酷いわ、とお小言を垂れてくる。


「口調の『―っす』私が聞くだけで27回。気を付けようとする意識が足らないわ。姿勢も一時間で崩れる。

フランス語もまだ初歩も初歩なのに教科書の半分しか終わっていない。パソコンのデキなんて最悪。

イイ? 豊福。
貴方は御堂家財閥の子息となるの。
こんなにも未熟じゃ社交パーティーすら出せないわ。どういう教育を受けてきたのかしら」


ぐっ、こいつ……、今、父さん母さんの悪口を遠まわしに言ったな?
 
お、お、落ち着け。俺への嫌味だと思って甘受しよう。


父さん母さんの悪口じゃない、じゃない、じゃないんだぞ。


こめかみに青筋を立てる俺を余所に小泉ロッテンマイヤーさんは、

「出来が悪すぎ」

本当に貴方はエレガンス学院の奨学生なのかと失望を垣間見せた。

これは普通に聞き流せる。
初対面から言われ続けている嫌味だから。
 
「あまり酷いようなら」

婚約者をおりるべきだわ、とまで辛酸なことを言ってくれちゃって。

この人の中の俺はどんだけ出来が悪いんだろう。

きっと出来て当たり前の世界に身を寄せているから(小泉てんてー自身も良いところのお嬢様らしい。ご両親が弁護士だとか)、財閥界に戸惑ってばかりの俺に苛立っているんだと思う。

教える身にもなって欲しいとお小言を言われてしまい、俺はぐうの音も出ない。