「うちには企業なんちゃらって分かんないけどさ。息抜きしないと詰むよ。少しは充電しないと」
彼女の助言により、本日の昼休みは学食堂で昼食を取ることになった。
企業分析の資料は持っていこうかなぁっと思ったのだが、それでは休息にならないとすっぱり早苗に言われたため、渋々資料は教室に置いていく。
こうして婚約者や早苗達と共に久しぶりに手ぶらで学食堂を訪れることになったわけなのだが、その途中で鈴理は偶然にも後輩と鉢合わせてしまう。
いや、後輩というより元カレというべきだろう。
階段を下りて曲がり角を曲がった刹那、鈴理は生徒とぶつかった。
その生徒が元カレだったのだ。
相手方は派手に尻餅をつき、持っていた本を散らばしてしまう。
「アイテテ。申し訳ないです」
ちゃんと前を見てなくて、そう詫びを口にしてくる元カレはぶつかった相手が誰なのか気付くや否や、血相を変えた。
「も、申し訳ないです。鈴理先輩! ……じゃなかった、えーっと鈴理令嬢。お怪我はないですか?」
「大したことは無いが」
なんだその畏まった口調は。
とてつもなく似合わないぞ。
眉根を寄せる鈴理に構わず、「良かったっす」と元カレは胸を撫で下ろしていた。
が、自分の口調に気付き、「良かったです」と言いなおしていた。
「改めましてこんにちは。鈴理令嬢、川島先輩、それに大雅令息、宇津木令嬢。ご機嫌は如何でしょうか?」
「豊福。テメェどうした。ンなに畏まっちまって。此処は公の場じゃねえぞ」
大雅のツッコミに、「やっぱ似合わないっすよね」空が口調を戻し苦笑いを零した。
自分もこの口調は慣れなくて困っているのだと肩を竦める。
礼儀作法は常日頃から心がけておかなければ公の場で使えないと教えられ、畏まった態度をとっていたらしい。
ふーんと鼻を鳴らす大雅だったが、空の持っていた本の数々に目を向け驚きを露にする。
彼が持っているのは複数の語学本だった。
「韓国語にフランス語、中国語にドイツ語だ? お前、いっぺんにそれをやってんのかよ」
「はい。財閥の令息令嬢は英語以外、最低四ヶ国語は喋れないといけないらしいんで。今から習って間に合うかどうか不安ですけど、やれるところはやっていかないと」
「……俺でも二ヶ国語しか学んでねぇぞ。ちと量が多くねぇか?」
「そうなんでしょうか」俺には分からないけれど、与えられたことはしっかりやっていかないと。
空は覇気のない笑みを返した。
やや、いやだいぶんお疲れ気味らしい。
よくよく見ると顔色も優れていないようだ。
「これも御堂先輩のためっす」
彼はすべての理由をそれで片付け、そろそろ行くと会釈してぶつかったことを詫びて歩き出す。



