前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「ところで兄貴。てめぇなんの用だよ」


がじがじとりんごに齧りついている兄に大雅は疑問をぶつける。

咀嚼をしている楓は口内のものを嚥下すると、りんごを一緒に食べようと思ったのだと一笑。

べつに大きな用事など無かったらしい。

が、大雅自身、それは嘘だと思えてならない。

だからこそ追究する。
本当は用事があったんじゃないか、と。


最初こそへらへらっと笑って誤魔化していた楓だったが、流れが変わらないと肌で感じると一変して含みある微笑を浮かべた。


「大雅達の婚約破談が浮上しているでしょ。お兄ちゃんは心配してきたんだよ。……なーんて建前では言ってみるけど、実は親に説得してくるよう頼まれた刺客さ」

 
なるほど、だから部屋に来たのか。

納得した大雅は何を言われても、自分達の意思を曲げるつもりはないと兄に物申す。

これは自分と婚約者の問題、将来どころか生涯に渡る問題なのだ。


簡単に親に決められてなるものか。

冷然と告げ、説得するつもりで来たなら部屋に戻れと素っ気無く返す。


「あたしも同意見です」


これは自分達の問題ですから、鈴理も義兄予定の楓に気持ちを伝えた。

両者の気持ちを耳にした楓は驚く素振りもなく、寧ろ好意的に意見を聞き受けた。

次いで、楓の口からこう告げられる。


「僕は説得するつもりで来たわけじゃない」


と。


「僕はね。別に二人が決めたならそれでいいと思ってるんだ。
というより、今回の一件は強引過ぎた。大雅があんなに嫌がっていたのに、勝手に子の生涯を決め付けてさ。
困ったものだね、うちの両親にも。僕はホトホト呆れて物が言えないよ。鈴理ちゃんもごめんね、うちの親が頑固で」

 
「楓さん…、いえ此方の両親も強引でしたから」


力なく笑う鈴理に目で笑い、楓はりんごにかぶりつく。

「じゃあ兄貴は何しに」眉根を寄せる大雅に、「手を借りに来た」楓が眼鏡のブリッジを押して口角を持ち上げる。


手を借りに来た、なんてこれまた話題性から外れた台詞である。

一体どういう意味だ、大雅は言葉を重ねる。

シャリシャリとりんごを噛み砕く楓は、ソファーから腰を浮かすと窓辺に向かった。


「大雅。鈴理ちゃん。財閥界はビジネス界でもトップを争う実力社会だ。実力者だけが物を言える社会で成り立っている。
つまり自分達の主張を通すには、それなりの実力を持っておかないといけない」