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【二階堂家・次男の自室にて】
 
 
「よーし、よし。俺に近付くな。それを手放すまで俺に近付くな。近付くなよ!」

「ナニを怖じている。あたしの婚約者だろ? 快く受け入れるのが筋というものではないのか?」
 
 
二階堂家次男、二階堂大雅(17)は追い詰められていた。
 
幼馴染(というか腐れ縁)を前に追い詰められていた。


只今、同年の婚約者が泊まりという口実で部屋に転がり込んでいるのだが、嫌な予感はしていたのだ。彼女が我が家に泊まりに来たいなんて。
  

最初こそ両親と対峙しているから、家は居心地が悪く、此処に逃避したいのではないかと安易に思っていたのだが。


部屋に来た途端の彼女のあくどい面持ちを見て大雅は悟った。


こいつは攻め不足を補うために此処に来たのだと。


どうにか談笑という手で誤魔化し誤魔化し流れを作っていたのだが、ついに鈴理が動き出した。


その手にリボンを持って自分に迫ってきた。
 

ただのリボン、されどリボン、持ち手によってその用途が変わることを大雅はよーく知っているために壁際に避難している。


「大雅。何故逃げる? 怖くないぞ。リボンを出しただけだぞ」

 
ニンマリ笑みを浮かべる鈴理に、


「それで何する気か分かってんだぞ」


お前はそれで俺様を拘束しようとしているだろ! ビシッと大雅は相手を指差した。
 

いやいやそんなまさか。

あたしが許婚、いや婚約者にそんな酷なことをするわけないではないか。

なーんて、ひらひらとリボンを回しながら鈴理がスマイルを作っているが目が泳いでいる。図星のようだ。


「テメェは俺を犯したいのかよ!」


大雅の喝破に、


「仕方がないではないか!」


究極の攻め不足なのだから!
鈴理は開き直ったように声を張り、グズッと可愛らしく泣き真似をする。


「ちょっとだけでいいんだ。ちょっと縛ったら気が済むから。うぇーん、大雅が縛らせてくれない」


ちっとも可愛くねぇ嘘泣きである。

大雅は大きな溜息をついて肩を落とす。


「テメェのちょっとはちょっとじゃねえんだよ。
昔からテメェは俺との男女ポジションを交換したがっていたが、豊福と関わり始めてから一層磨きがかかりやがったな」
 
 
グズグズと嘘泣きを続ける鈴理にキショイと毒づくと、チッと舌打ちして傲慢にも腕を組んでみせる。