「新雪に足跡をつけた気分だよ。ふふっ、赤くなって綺麗だ」
濡れた首筋を何度も指でなで上げ、往復させる王子。
どどーんと攻めてくれたらこっちも楽なのに、精神をじわりと侵食するように攻めてくるものだから俺の羞恥は膨張するばかりだ。
きっとそれが狙いなんだろう。
いつまでも人の剥かれた肌や痕を見つめてくる。
ああもう、いっそ一思いに攻めて欲しい!
羞恥で死ねるぞ、俺!
おねだりした言葉もひっくるめて恥ずかしくなってきたじゃないか!
血液が沸騰するんじゃないかってくらい羞恥の熱を感じてしまった俺は、相手の笑声を合図にもうダメだと両腕で顔を隠した。
「そ、そんなに見ないで下さいよ」
耐えかねて意見するけど、「ヤダね」もっと見ておきたい。僕のものだという証と君の恥じらう姿を。なんぞと彼女は言ってくる。
……泣きたいんですけど。
「豊福。顔、見せて」
そっと腕に手を添えてくる御堂先輩、かぶりを振って俺は無理だと訴えた。今の顔は見せられない。
「ダメ。見せて」べりっと腕を剥がして俺の顔を覗き込んでくる御堂先輩は静かに目尻を下げると、軽く額に口付けを落とす。
「豊福も僕を見ていて。君を攻めている相手が誰なのかを。痕を付けているのは誰なのかを。―――…今の君は僕のものだ」
妖艶に綻ぶプリンセスの言葉は魔法だと思った。
物の見事に人をフリーズさせる力が宿っているらしく、呼吸すら忘れて恍惚に相手を見つめてしまう。
「いい子だね」
露出している右肩に唇を寄せ、ゆっくりと首元に戻って吸った。
「ん」くすぐったさから自然と声を漏らす俺に気を良くしたらしく、もっと聞かせてと彼女がねだってくる。
「御堂先輩」手を伸ばすと、指を絡め取られた。
「君をちょうだい。もっと君を僕で染めさせて」
彼女は吸血鬼のように人の首を食み、肌蹴させた浴衣をより肌蹴させてくる。
食まれる唇とキスの濃厚さが王子の欲の強さを教えてくれる気がした。
同時に障子向こうから失礼します、と声。
「空さま。お嬢様。湯殿は如何しますか」
そう言って障子を開けたのは博紀さんだった。
「湯殿をご利用にならないなら、さと子の用意した茶菓子でもどうでしょう?」
そう言う彼は背後にいるさと子ちゃんと一緒に部屋に入ってくる(多分淳蔵さんとの一件に気遣ってだと思う)。
が、遺憾なことに俺と御堂先輩はお取り込み中。
それに気付いた博紀さんは硬直。後ろにいたさと子ちゃんも硬直アーンド赤面。
キスをされていた俺も最初こそ、何事だろうと悠長に視線を流していたんだけど、我に返ってびっくり仰天の石化。
だってよ?
障子を開けたら、女に攻められている肩剥き出しの男がいるんだぞ?
おにゃのこに攻められている俺がいるんだぞ?!
そりゃもう、硬直するだろ! 絶句もんだろ!



