前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




半月が真上に昇る。
 
 
静かに地上を見下ろしている半月から放たれる光は癒しの効力を持っているのかもしれない。

ほのかな夜空の明かりは蔵の外に出た俺に優しさを与えてくれるのだから。


淡い光を受けながら俺は背後にいる王子の手を引いて自室に戻る。
 
今の彼女は誰かが手を引かないと、きっと佇んだまま動かないだろうから。

彼女の気持ちは迷子のままなんだと思う。
シビアな現実に打ちひしがれ、前にも後ろにも進めないんだろう。

だったら彼女の姫として、たまには王子を先導しよう。
 
王子はいつも道に迷った誰かの手を引いてくれるんだ。

今日くらいはエスコートされても良いと思う。
 

冷たい夜風をあいた手で払い、静まり返る庭園に足を踏み入れる。
 
水音が聞こえた。池からだろう。
そこに住んでいる鯉が戯れているのかもしれない。

視界の端に見える池の水面は月光を跳ね返していた。

鏡のように映っている月光を見て思う。お月さんの光って案外、強いもんなんだなっと。
 

一言も喋らない王子を連れて縁側に辿り着いた俺はローファーを脱いで家に上がる。

王子がぞんざいにローファーを脱ぎ捨てたから、それを揃えて、俺の靴も揃えて、広い廊下を進む。

 
ぎしぎし軋む床の音に注意を払いながら自室に向かっていると一子さんと鉢合わせた。

一子さんは大間を飛び出した愛娘がとても心配だったようで、行方知れずだった彼女の姿を目にして安堵の息を漏らしていた。

声を掛けてくれたけど御堂先輩がダンマリになってしまっていたから、代わりに俺が答えてやる。少し疲れているようです、と。
 
 
一子さんは納得してくれたのか、俺に御堂先輩を託して部屋に戻る。
 

おやすみなさいと挨拶を送り、俺達は再び足を動かして今度こそ自室へ。

まずは御堂先輩の自室に向かい、彼女に着替えてくるよう促した。俺は此処で待っているから、そう付け加えて。

けれど信用されていないのか、はたまた他に思うことがあるのか、口を閉ざしたまま御堂先輩は手を放してくれなかった。それどころか握る手が強くなる。
 

会話をしてくれない彼女に苦笑して、俺は仕方がなしに一緒に部屋に入る。そこで着替えを取らせると俺の部屋に連れた。


「今日は此処で寝てくださいね」
 
 
あ、今日もでしょうかね。

おどけながら障子を開けた俺は部屋に明かりを点けて彼女の手をゆっくり放す。まだ手を放してくれない。
 
首を捻った俺は一笑して、目に見える此処にいるからと相手に伝える。

「貴方の傍にいると言ったのは俺ですよ?」

離れて行かないから、言葉を重ねるとようやく王子は手を放してくれた。

 
汗ばんだ手が離れていき、彼女は持っていた家着(浴衣)に着替えるためにのそのそと学ランのボタンを外す。